倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

下降階乗冪ってのがあったので上昇階乗冪ってのも試してミルカ

以前の記事で以下のような下降階乗冪というのを扱いました:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\underline n}
        &= x(x-1)(x-2)\cdots (x-(n-1)) \\
        &= \prod_{k=0}^{n-1}(x-k)
\end{align*}
}

で、「下降」階乗冪ってのがあるなら「上昇階乗冪」というのもあって良さそうなので、同じように定義してみましょう。 定義は以下のようにするのが自然でしょう:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\overline n}
        &= x(x+1)(x+2)\cdots (x+(n-1)) \\
        &= \prod_{k=0}^{n-1}(x+k)
\end{align*}
}

この上昇階乗冪は、超幾何関数 (hypergeometric function) の定義などに使われるポッホハマー記号 (Pochhammer symbol) と同じもののようですね(wikipedia:階乗):

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\overline n} = (x)_n
\end{align*}
}

また、ガンマ関数 { \Gamma (x) } を用いて自然数でない { n } に定義を拡張することもできるようです:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\overline n} &= \frac{\Gamma(x+n)}{\Gamma(x)} \\
    x^{\underline n} &= \frac{\Gamma(x+1)}{\Gamma(x-n+1)}
\end{align*}
}

下降階乗冪の拡張定義も載せてみました。 これらはガンマ関数の性質(以前の記事「とあるガンマ関数の公式目録」参照)

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Gamma(x+1) = x\Gamma(x)
\end{align*}
}

を使えば簡単に導けます。 また、上記の定義から

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\overline 0} = x^{\underline 0} = 1
\end{align*}
}

となることも分かります。 負の整数についても({ n } を正の整数として)

  { \displaystyle
\begin{align*}
    x^{\overline{-n}} &= \prod_{k=1}^n \frac{1}{x-k} &
    x^{\underline{-n}} &= \prod_{k=1}^n\frac{1}{x+k}
\end{align*}
}

が成り立ちます。 符号に注意。

下差分

前々回に定義した差分

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta f(x) = f(x+1) - f(x)
\end{align*}
}

は下降階乗冪に対して通常の微分のように作用するのでした:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta x^{\underline n} = n x^{\underline{n-1}}
\end{align*}
}

残念ながら、上昇階乗冪にこの差分演算子 { \Delta } を作用させると

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta x^{\overline n}
        &= (x+1)(x+2)\cdots(x+n) - x(x+1)\cdots(x+(n-1)) \\
        &= (x+1)(x+2)\cdots(x+(n-1))\Big\{(x+n) - x\Big\} \\
        &= n (x+1)(x+2)\cdots(x+(n-1)) \\ &= n(x+1)^{\overline{n-1}}
\end{align*}
}

となって、通常の微分のようには作用しません。

では、上昇階乗冪に微分のように作用する演算はあるのでしょうか? これを考えるために、次のことに着目しましょう。 微分演算子は変化率の幅を0にする極限に対応し、その極限について上極限、下極限がともに同じ値に収束するというのが微分可能の条件でした。 一方、前々回見た差分演算子は幅が1のために極限を用いる必要がなく、上極限、下極限に対応する上差分と下差分が一致する必要がないのでの2つの差分を考えることができます。 そして下降階乗冪に微分のように作用するのは上差分でした。 とすると、上昇階乗冪に微分のように作用するのは下差分

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta' f(x) = f(x) - f(x-1)
\end{align*}
}

ではないかと予想できます。 で、実際に計算してみると

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta' x^{\overline n}
        &= x(x+1)(x+2)\cdots(x+(n-1)) - (x-1)x(x+1)\cdots(x+(n-2)) \\
        &= x(x+1)(x+2)\cdots(x+(n-2))\Big\{(x+n-1) - (x-1)\Big\} \\
        &= n x(x+1)(x+2)\cdots(x+(n-2)) \\
        &= nx^{\overline{n-1}}
\end{align*}
}

となり、確かに微分演算のように作用することが分かりました*1

上和分

微分のように作用する差分演算子が得られたので、次はその逆演算になる和分を考えましょう。 まぁ、だいたいどんな演算になるかは予想できるかと思いますが、以下のような上和分がその演算になります:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Sigma' f(t) = \sum_{t=1}^n f(t)
\end{align*}
}

和をとっている範囲に注意。 前回見た(下)和分は和の範囲が 0 から { n-1 } でした。 上和分も下和分も { n } 個の項を加えている点は同じ。 では、実際に上和分 { \Sigma' } が下差分 { \Delta' } の逆演算になっているか確かめてみましょう。 まずは任意の関数 { f(x) } に上和分 → 下差分の順に作用させた場合:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Delta' \left\{\Sigma' f(t)\right\}
        &= \Delta'\left\{\sum_{t=1}^n f(t)\right\} \\
        &= \sum_{t=1}^n f(t) - \sum_{t=1}^{n-1} f(t) \\ &= f(n)
\end{align*}
}

次は下差分 → 上和分の順に作用させた場合:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Sigma'\left\{\Delta' f(t)\right\}
        &= \sum_{t=1}^n\left\{f(t) - f(t-1)\right\} \\
        &= f(n) - f(0)
\end{align*}
}

後者は前回の(下)和分の場合のように { f(0) } が和分定数として残りますが、基本的には上和分が下差分の逆演算であることが分かりました。 これと前節で導いた上昇階乗冪に対する下差分の作用より

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \Sigma' t^{\overline n} = \tfrac{1}{n+1}x^{\overline{n+1}}
\end{align*}
}

が成り立つことが分かります。
  

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

*1:前々回に、(上)差分演算子が下降階乗冪に微分のように作用することを証明するために数学的帰納法を使いましたが、ここで行ったように、普通に計算して導けるようです。 前々回の記事に追記しました。