倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

グラフの回転を軌跡で理解する

数年前から高校数学で行列をやらなくなってグラフの回転ができなくなるなぁと思ってたんだけど*1、軌跡の問題だと思えば(言い張れば)今の高校数学の範囲内でグラフの回転を行うことができそうなので、実際にやってみます。 この記事内では回転は原点の周りの回転のみを扱います。

導出

回転したグラフの求め方は、基本的には前回導いたグラフの平行移動と同じですが、一般的に回転後のグラフの方程式は { y = f(x) } の形では書けないので、回転する前後のグラフが

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x,\,y) = 0
\end{align*}}

のような形で与えられるとします。 例えば、中心が原点、半径が  { r } の円の方程式は  { x^2 + y^2 = r^2 } なので

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x,\,y) = x^2 + y^2 - r^2
\end{align*}}

です。

点を回転したときの座標の変換則を導く
まずは、任意の点を原点の周りに  { \theta } だけ回転したときの変換則を導きましょう。 「まずは」と言いつつ、これが導出の主な計算なんですが。

原点  { O } 以外の任意の点  { A(x_1,\,y_1) } をとり、線分  { OA } の長さを  { r } { OA } { x } の正の部分がなす角を  { \alpha } とします:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{cases}
    x_1 &= r\cos\alpha \\
    y_1 &= r\sin\alpha
  \end{cases}
\end{align*}}

また、この点  { A } を原点の周りに反時計回りに  { \theta } だけ回転した後の点を  { B(x_2,\,y_2) } とします。

f:id:waman:20160411060107p:plain

このとき、 { x_2,\,y_2 } { x_1,\,y_1 } で表すと

  { \displaystyle\begin{align*}
  x_2 &= r\cos(\alpha + \theta) \\
    &= r\cos\alpha\cos\theta - r\sin\alpha\sin\theta \\
    &= x_1 \cos\theta - y_1 \sin\theta\\[2mm]
  y_2 &= r\sin(\alpha + \theta) \\
    &= r\sin\alpha\cos\theta + r\cos\alpha\sin\theta \\
    &= y_1\cos\theta + x_1\sin\theta \\
    &= x_1\sin\theta + y_1\cos\theta
\end{align*}}

結果をまとめると、変換則は以下のようになります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{cases}
    x_2 = x_1 \cos\theta - y_1 \sin\theta \\
    y_2 = x_1 \sin\theta + y_1 \cos\theta
  \end{cases}
\end{align*}}

変換前の座標を変換後の座標で表す
上記の変換則を逆に解いて  { x_1,\,y_1 } { x_2,\,y_2 } で表しましょう。 文字がたくさん出てきてますが、 { x_1,\,y_1 } だけが変数の(2元)連立方程式と思って解けば簡単に求まって

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{cases}
    x_1 = \;\;\; x_2 \cos\theta + y_2 \sin\theta \\
    y_1 = -x_2 \sin\theta + y_2 \cos\theta
  \end{cases} \quad\cdots (1)
\end{align*}}

となります*2

回転後のグラフの方程式を求める
以上を踏まえて、グラフを回転させてみましょう。 回転させたいグラフの方程式が  { f(x,\,y) = 0 } で与えられているとしましょう。 点  { A } をこのグラフ上にとれば、 { x_1,\,y_1 }

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x_1,\,y_1) = 0
\end{align*}}

を満たします。これを(1)式に代入すると

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x_2\cos\theta + y_2\sin\theta,\,-x_2\sin\theta + y_2\cos\theta) = 0
\end{align*}}

よって  { f(x,\,y) = 0 } のグラフを原点の周りに  { \theta } だけ回転したグラフの方程式は

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x\cos\theta + y\sin\theta,\,-x\sin\theta + y\cos\theta) = 0
\end{align*}}

で与えられます。

使ってみよう

数学III の2次曲線で出てくる双曲線  { x^2 - y^2 = k } { k } は0でない定数。 漸近線は  { y = \pm x }*3)を  { 45^\circ (= \tfrac{\pi}{4}) } だけ回転させて、中学校で習った双曲線の方程式になることを確かめてみましょう(図は  { k > 0 } の場合)。
f:id:waman:20160411062603p:plain

この場合、 { f(x,\,y) }

  { \displaystyle\begin{align*}
  f(x,\,y) = x^2 - y^2 - k
\end{align*}}

となります。

  { \displaystyle\begin{align*}
  &f(x\cos\tfrac{\pi}{4} + y\sin\tfrac{\pi}{4},\,-x\sin\tfrac{\pi}{4} + y\cos\tfrac{\pi}{4}) \\
    &\quad= f\left(\frac{x + y}{\sqrt{2}},\,\frac{-x + y}{\sqrt{2}}\right) \\
    &\quad= \left(\frac{x + y}{\sqrt{2}}\right)^2 - \left(\frac{- x + y}{\sqrt{2}}\right)^2 - k \\
    &\quad= 2xy - k
\end{align*}}

よって回転後の双曲線の方程式は

  { \displaystyle\begin{align*}
  2xy - k &= 0 \\
  \therefore y &= \frac{k}{2x}
\end{align*}}

となって、 { y } { x } に反比例する式が導けました。

*1:行列が無くなった代わりに複素数平面(複素平面ガウス平面)が復活したので、それを使って回転を行うこともできますが。

*2:点 B は 点 A を -θ だけ回転させたと思えばすぐ出ますが。

*3:2次曲線としての双曲線の方程式で a² = b² = ±k の場合。