倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

中心力ポテンシャル中での質点の軌跡 ~2次元~

古典力学のいろいろな系で運動方程式を解いていくシリーズ(目次)。 今回は、2次元において中心力ポテンシャル中で運動する質点の描く軌跡を求める方法を見ていきます。

中心力ポテンシャル中での質点の運動方程式 ~2次元~』で、中心力ポテンシャル中で運動する質点の座標  { r,\,\theta } を時間の関数として求める一般的な方法を見ましたが、この方法で具体的な問題を解こうとすると、積分を実行したり結果を  { r } { \theta } について解いたりするのが大変、もしくは初等関数で書けないという場合がよくあります*1。 ただし、そういった場合でも方程式から時間を消去して、質点が描く軌跡を求めることができます。

この記事の内容

参考

積分

中心力ポテンシャル中での質点の運動方程式 ~2次元~』より、動径  { r }偏角  { \theta } は時間微分に関して以下の微分方程式を満たします:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{1}{2}m\left(\frac{dr}{dt}\right)^2 &= -\frac{\ell^2}{2mr^2} - V(r) + E \\
  \frac{d\theta}{dt} &= \frac{\ell}{mr^2}
\end{align*}}

 { r }微分方程式 { dt } について解くと

  { \displaystyle\begin{align*}
  dt &= \frac{dr}{\sqrt{\frac{2}{m}\left(E - V(r) - \frac{\ell^2}{2mr^2}\right)}}
\end{align*}}

これと  { \theta }微分方程式から  { dt } を消去すると

  { \displaystyle\begin{align*}
  d\theta
    &= \frac{\ell}{mr^2} dt \\
    &= \frac{\ell dr}{mr^2\sqrt{\frac{2}{m}\left(E - V(r) - \frac{\ell^2}{2mr^2}\right)}} \\
    &= \frac{\ell dr}{r^2\sqrt{2m\left(E - V(r) - \frac{\ell^2}{2mr^2}\right)}}
\end{align*}}

両辺を積分して

  { \displaystyle\begin{align*}
  \theta - \theta_0 = \frac{\ell}{\sqrt{2m}}\int \frac{dr}{r^2\sqrt{E - V(r) - \frac{\ell^2}{2mr^2}}}
\end{align*}}

となります。 ここで  { \theta_0 }積分定数です。 ポテンシャル  { V(r) } の具体的な形を与えて右辺の  { r } 積分を実行すると、 { \theta } { r } で表した軌道の方程式が得られます。

別の形
場合によっては、 { r } の代わりに  { u = \frac{1}{r} } で定義される変数  { u } を導入した方が積分が簡単になる場合があります。

  { \displaystyle\begin{align*}
  du &= \frac{du}{dr}dr \\
       &= -\frac{dr}{r^2}
\end{align*}}

より、上記の積分

  { \displaystyle\begin{align*}
  \theta - \theta_0 = - \frac{\ell}{\sqrt{2m}}\int \frac{du}{\sqrt{E - V\left(\frac{1}{u}\right) - \frac{\ell^2}{2m}u^2}}
\end{align*}}

となります。

境界条件
中心力ポテンシャル中での質点の運動方程式 ~2次元~』で書いたように(【追記】した)、質点が回帰点にいるときに  { t = 0 } となるように時刻の基準をとりますが、軌道の方程式でも回帰点が  { \theta = 0 } となるように偏角の軸をとります。 回帰点では動径方向の速度が0なので、軌道( { \theta } の関数としての  { r })に対する条件は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left.\frac{dr}{d\theta}\right|_{\theta = 0}
    &= \left.\frac{\,\frac{dr}{dt}\,}{\frac{d\theta}{dt}}\right|_{\theta = 0}
    &= 0
\end{align*}}

となります。 変数  { u } を使う場合は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{du}{d\theta}
    &= \frac{du}{dr}\frac{dr}{d\theta} \\
    &= -\frac{1}{r^2}\frac{dr}{d\theta}
\end{align*}}

より、やはり  { \theta } 微分が0になればいいことが分かります。 両方の場合の条件を書き下しておくと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left.\frac{dr}{d\theta}\right|_{\theta = 0} &= 0 \qquad \textrm{or}&
  \left.\frac{du}{d\theta}\right|_{\theta = 0} &= 0
\end{align*}}

となります。

軌跡の微分方程式

ポテンシャルの具体的な関数形が分かれば、上記の積分を実行して軌跡の方程式が求まり、それで問題終了なんですが、ここでは  { \theta } の関数としての  { r } が満たす微分方程式を導いてみます。 出発する微分方程式が実質的に同じなので、ここで得られた微分方程式積分して解を求めると上記の積分になり、理論としては特に新しい事項はありません。 ただし、この微分方程式を使うと、質点の運動からポテンシャルの形を求めることができるそうなので(自分で実際にやったことはないけど)、一応やっておきます。

出発となる微分方程式は、やはり  { r } { \theta }運動方程式です:

  { \displaystyle\begin{align*}
  m\frac{d^2 r}{dt^2} &= \frac{\ell^2}{mr^3} - \frac{dV}{dr} \\
  \frac{d\theta}{dt} &= \frac{\ell}{mr^2}
\end{align*}}

 { r } の方は前節のものと違う形ですが、少し変形すれば同じ形できます。 さて、 { \theta }運動方程式から、時間微分偏角微分で表すことができます:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d}{dt}
    &= \frac{d\theta}{dt}\frac{d}{d\theta} \\
    &= \frac{\ell}{mr^2}\frac{d}{d\theta}
\end{align*}}

これを使って、 { r }運動方程式の時間微分偏角微分に書き換えると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{\ell^2}{m} \frac{1}{r^2}\frac{d}{d\theta}\left(\frac{1}{r^2}\frac{dr}{d\theta}\right)
    &= \frac{\ell^2}{mr^3} - \frac{dV}{dr} \\
  \therefore \; \frac{1}{r^2}\frac{d}{d\theta}\left(\frac{1}{r^2}\frac{dr}{d\theta}\right)
    &= \frac{1}{r^3} - \frac{m}{\ell^2}\frac{dV}{dr}
\end{align*}}

となります。  { \theta } 微分を含む項がちょっと込み入っていますが、次の恒等式

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d}{d\theta}\left(\frac{1}{r}\right) &= - \frac{1}{r^2}\frac{dr}{d\theta}
\end{align*}}

に注意して、変数  { u } { u = \frac{1}{r} } によって導入すると、上記の微分方程式の左辺は  { -u^2\frac{d^2u}{d\theta^2} } のように簡単な形にまとまります。 また、 { r } 微分 { u } で書き換えると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d}{dr}
    &= \frac{du}{dr}\frac{d}{du} \\
    &= -\frac{1}{r^2}\frac{d}{du} \\
    &= -u^2\frac{d}{du}
\end{align*}}

となるので、結局、上記の微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  -u^2\frac{d^2u}{d\theta^2} &= u^3 + \frac{m}{\ell^2}u^2\frac{d}{du}V\left(\frac{1}{u}\right) \\
  \therefore \; \frac{d^2u}{d\theta^2} + u &= -\frac{m}{\ell^2}\frac{d}{du}V\left(\frac{1}{u}\right)
\end{align*}}

となります。 まぁ、これを解けば前節の積分 { u } で表したもの)になるだけなんですが。

今回は中心力ポテンシャルが働く質点の運動から時間を消去して軌跡の方程式を求めました。 具体的なポテンシャルについての結果は後日やる予定。

修正

  • 軌跡の場合は初期条件と言うより境界条件と言った方が適切なので修正しました。
  • 境界条件の箇所の一部を別記事に移しました。

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*1:ケプラー問題で既に  { r } { t } の関数として解けない。