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倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

ケプラー問題のある保存ベクトル

古典力学のいろいろな系で運動方程式を解いていくシリーズ(目次)。 ケプラー問題ではエネルギーと角運動量以外に保存されるベクトルが存在することが知られています。 今回は簡単にこのベクトルについて見ていきましょう。 このベクトルを使うと比較的簡単に軌跡の方程式を求めることができます。

少々準備。 角運動量  { \textbf{L} } は、位置ベクトル、運動量ベクトルをそれぞれ { \textbf{r},\,\textbf{p}} として

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{L} = \textbf{r} \times \textbf{p}
\end{align*}}

で定義されます。 通常、ベクトルの大きさはボールド体でない同じ文字で表しますが、角運動量ベクトルの大きさは  { \ell } とします( { \ell = |\textbf{L}| })。 中心力ポテンシャル中を運動する質点の角運動量は保存するのでした:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \dot{\textbf{L}} = \textbf{0}
\end{align*}}

文字の上のドットは時間微分を表すことにします  { \left(\dot{x} = \frac{dx}{dt}\right) }

Laplace - Runge - Lenz ベクトル

中心力  { f(r)\dfrac{\textbf{r}}{r} } (ポテンシャルではない)を受けて運動する質点を考えましょう。 この質点の運動方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  \dot{\textbf{p}} = f(r)\frac{\textbf{r}}{r} \qquad \left(\dot{p} = f(r)\right)
\end{align*}}

となります。 さて、ベクトル  { \textbf{p} \times \textbf{L} } の時間微分を考えましょう。  { \textbf{L} } は保存するので

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d}{dt}\left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) = \dot{\textbf{p}} \times \textbf{L}
\end{align*}}

となります。 右辺に上記の運動方程式を使って変形していくと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \dot{\textbf{p}} \times \textbf{L}
    &= f(r)\frac{\textbf{r}}{r} \times (\textbf{r} \times \textbf{p}) \\
    &= \frac{mf(r)}{r} \; \textbf{r} \times (\textbf{r} \times \dot{\textbf{r}}) \qquad
      \left(\because \textbf{p} = m\dot{\textbf{r}}\right)
\end{align*}}

ベクトルの公式あれこれ ~大学編~』で証明した、成分について3次の公式より

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{r} \times (\textbf{r} \times \dot{\textbf{r}})
    &= \textbf{r}(\textbf{r} \cdot \dot{\textbf{r}}) - (\textbf{r} \cdot \textbf{r})\dot{\textbf{r}}
\end{align*}}

なので、 { \textbf{r} \cdot \textbf{r} = r^2 } { \textbf{r} \cdot \dot{\textbf{r}} = \frac{1}{2}\frac{d}{dt}\left(\textbf{r} \cdot \textbf{r}\right) = \frac{1}{2}\frac{dr^2}{dt} = r\dot{r} } も使って

  { \displaystyle\begin{align*}
  \dot{\textbf{p}} \times \textbf{L}
    &= \frac{mf(r)}{r} \;
      \left\{\textbf{r}(\textbf{r} \cdot \dot{\textbf{r}}) - (\textbf{r} \cdot \textbf{r})\dot{\textbf{r}}\right\}  \\
    &= \frac{mf(r)}{r} \left(r\dot{r}\textbf{r} - r^2 \dot{\textbf{r}}\right) \\
    &= mf(r) \left(\dot{r}\textbf{r} - r \dot{\textbf{r}}\right) \\[2mm]
    &= -mf(r)r^2 \frac{d}{dt}\left(\frac{\textbf{r}}{r}\right)
\end{align*}}

を得ます。 最後の式を見ると、 { f(r)r^2 } が定数、すなわち  { f(r) \propto \frac{1}{r^2} } の逆2乗法則の場合には項全体が時間微分になることが分かります。 ケプラー問題の中心力は  { f(r) = -\frac{k}{r^2} } だったので、上式に使うと

  { \displaystyle\begin{align*}
  &\frac{d}{dt}\left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right)
    = km \frac{d}{dt}\left(\frac{\textbf{r}}{r}\right) \\
  \therefore \; &\frac{d}{dt}\left(\textbf{p} \times \textbf{L} - km \frac{\textbf{r}}{r}\right) = \textbf{0}
\end{align*}}

ここで Laplace - Runge - Lenz ベクトル  { \textbf{A} } (以下、文中ではラプラス・ベクトル)を

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{A} = \textbf{p} \times \textbf{L} - km \frac{\textbf{r}}{r}
\end{align*}}

で定義すると、 { \dot{\textbf{A}} = \textbf{0} } となり、このベクトルが保存することが分かります。

Laplace - Runge - Lenz ベクトルの性質

ラプラス・ベクトルの性質をいくつか見ておきましょう。

大きさ
ベクトルの大きさ  { A = |\textbf{A}| = \sqrt{\textbf{A}^2} } を計算してみましょう。

  { \displaystyle\begin{align*}
  A^2
    &= \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) \cdot \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right)
      - \frac{2km}{r} \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) \cdot \textbf{r}
      + k^2m^2 \\
    &=\left(\textbf{p}\cdot\textbf{p}\right)\left(\textbf{L}\cdot\textbf{L}\right) - \left(\textbf{p}\cdot\textbf{L}\right)^2
      - \frac{2km}{r} \left(\textbf{r} \times \textbf{p}\right) \cdot \textbf{L} + k^2m^2 \\
    &=p^2\ell^2 - \frac{2km\ell^2}{r} + k^2m^2 \qquad \left(\because \textbf{p}\cdot\textbf{L} = 0\right)\\
    &=2m\ell^2\left(\frac{p^2}{2m} - \frac{k}{r}\right) + k^2m^2 \\
\end{align*}}

1行目から2行目に変形する際に、第1項に『ベクトルの公式あれこれ ~大学編~』の成分について4次の公式を使ってます。 ここで、最後の行の第1項の括弧内は質点の力学的エネルギーに等しいので、これを  { E } とおいて

  { \displaystyle\begin{align*}
  A^2
    &= 2m\ell^2 E + k^2m^2 \\
    &= k^2m^2 \left(1 + \frac{2E\ell^2}{k^2m}\right) \\
    &= e^2k^2m^2 \qquad \left(\because e = \sqrt{1+\frac{2E\ell^2}{k^2m}}\right)
\end{align*}}

 { e } は軌道の方程式の離心率と同じ定義です(後で見るように、これは確かに軌道の2次曲線の離心率になります)。 よって、ラプラス・ベクトルの大きさは

  { \displaystyle\begin{align*}
  A = e|k|m
\end{align*}}

となります。

角運動量ベクトルとの内積
角運動量ベクトルは保存するので、ラプラス・ベクトルがそれとは別の保存ベクトルであるためには、角運動量ベクトルと直交していることが望ましいです(平行でなければいいんですが)。 なので、角運動量ベクトル  { \textbf{L} } との内積を計算してみましょう。

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{A} \cdot \textbf{L}
    &= \left(\textbf{p} \times \textbf{L} - km \frac{\textbf{r}}{r}\right) \cdot \textbf{L} \\
    &= \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) \cdot \textbf{L} - \frac{km}{r} \textbf{r} \cdot \textbf{L}
\end{align*}}

ここで

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) \cdot \textbf{L}
    &= \left(\textbf{L} \times \textbf{L}\right) \cdot \textbf{p} \\
    &= 0 \\[2mm]
  \textbf{r} \cdot \textbf{L}
    &= \textbf{r} \cdot \left(\textbf{r} \times \textbf{p}\right) \\
    &= \textbf{p} \cdot \left(\textbf{r} \times \textbf{r}\right) \\
    &= 0
\end{align*}}

なので

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{A} \cdot \textbf{L}= 0
\end{align*}}

となって、ラプラス・ベクトルと角運動量ベクトルは直交します。 つまり、ラプラス・ベクトルは質点が運動する平面内にあります。

Laplace - Runge - Lenz ベクトルから軌跡を求める

ラプラス・ベクトルを使うと質点の軌道が簡単に求められます。 そのために、まずラプラス・ベクトルと位置ベクトル  { \textbf{r} } との内積を計算してみましょう:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{A} \cdot \textbf{r}
    &= \left(\textbf{p} \times \textbf{L}\right) \cdot \textbf{r}
      - km \frac{\textbf{r}\cdot \textbf{r}}{r} \\
    &= \left(\textbf{r} \times \textbf{p}\right) \cdot \textbf{L} - kmr \\
    &= \ell^2 - kmr \\
\end{align*}}

また、ラプラス・ベクトルは保存されるベクトル、つまり時間的に変化しないベクトルなので、そのベクトルから測った偏角 { \theta } とおくと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \textbf{A} \cdot \textbf{r}
    &= Ar\cos\theta \\
    &= e|k|mr\cos\theta
\end{align*}}

となります。 これらを合わせると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \ell^2 - kmr &= e|k|mr\cos\theta \\
  \therefore \; r &= \frac{\frac{\ell^2}{km}}{1\pm e\cos\theta} \qquad \left(\textrm{for} \quad k \gtrless 0\right)
\end{align*}}

複号はそれぞれ  { k } の正負の場合に対応します。 これは『2次元のケプラー問題の軌跡』、『2次元のケプラー問題(斥力の場合)』(この記事では  { k } の定義が符号だけ違うので注意)で得られた軌跡の方程式と一致します。  { e } は同じ定義を使って、確かに2次曲線の離心率となるように方程式に現れています。

ここでは  { \theta }ラプラス・ベクトルから測った偏角と定義しましたが、これが以前に導いた軌道の方程式と一致したので、ラプラス・ベクトルは焦点から近日点の方向を向いたベクトルであることも分かります。

このラプラス・ベクトルは、角運動量ベクトルと併せて、正準変換の元で4次元の回転群やローレンツ群(相対性理論とは関係なく)を形成するようですが、今回はこの辺で。

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