倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

あれ、部分分数に分解して計算する級数って、もうちょっとキチンと解かないといけなくない?

高校数学の数列に出てくる以下のような級数(和)の計算を考えましょう:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    S_n
        &= \sum_{k=1}^n\frac{1}{k(k+1)} \\
        &= \frac{1}{1 \cdot 2} + \frac{1}{2 \cdot 3} + \frac{1}{3 \cdot 4} + \cdots + \frac{1}{(n-1)n} + \frac{1}{n(n+1)}
\end{align*}
}

この級数を計算するには、各項が以下のように部分分数分解できることを使います:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \frac{1}{k(k+1)} = \frac{1}{k} - \frac{1}{k+1}
\end{align*}
}

これを用いて Sn は以下のように計算するのでした:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    S_n
        &= \sum_{k=1}^n \left(\frac{1}{k} - \frac{1}{k+1}\right) \\
        &= \left(\tfrac{1}{1} - \not\!\tfrac{1}{2}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{2} - \not\!\tfrac{1}{3}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{3} - \not\!\tfrac{1}{4}\right) + \cdots + \left(\;\not\!\!\!\!\tfrac{1}{n-1} - \not\!\tfrac{1}{n}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{n} - \tfrac{1}{n+1}\right) \\
       &= 1 - \frac{1}{n+1} \\
       &= \frac{n}{n+1}
\end{align*}
}

さて、この計算で和を書き下した2行目は複数の項があることを前提として書いていますが、もし { n=1 } だと1つしか項がなくて互いに打ち消しあう項なんてないですよね。 それをまとめて書いていいのかなぁ?なんてちょっと気になるんですが、今の場合は { \frac{1}{k} } で残る項と { -\frac{1}{k+1} } で残る項が同じ { k=1 } のところから現れているだけなので、まぁ許容範囲でしょう。 別に n=1 のときを場合分けして解く必要なんてないと思います。

では次の例ではどうでしょう?

  { \displaystyle
\begin{align*}
    T_n
        &= \sum_{k=1}^n\frac{1}{k(k+2)} \\
        &= \frac{1}{1 \cdot 3} + \frac{1}{2 \cdot 4} + \frac{1}{3 \cdot 5} + \cdots + \frac{1}{(n-1)(n+1)} + \frac{1}{n(n+2)}
\end{align*}
}

これも高校でよく出てくる問題ですね。 解法は上記と同じように部分分数分解をします:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    \frac{1}{k(k+2)} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{k}-\frac{1}{k+2}\right)
\end{align*}
}

で、和も同じような方法で計算できそうです:

  { \displaystyle
\begin{align*}
    T_n
        &= \frac{1}{2}\sum_{k=1}^n \left(\frac{1}{k} - \frac{1}{k+2}\right) \\
        &= \tfrac{1}{2}\big\{\left(\tfrac{1}{1} - \not\!\tfrac{1}{3}\right) + \left(\tfrac{1}{2}
            - \not\!\tfrac{1}{4}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{3} - \not\!\tfrac{1}{5}\right) + \cdots \\
        & \qquad +  \left(\;\not\!\!\!\!\tfrac{1}{n-2} - \not\!\tfrac{1}{n}\right)
            + \left(\;\not\!\!\!\!\tfrac{1}{n-1} - \tfrac{1}{n+1}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{n} - \tfrac{1}{n+2}\right) \big\} \\
        &= \frac{1}{2}\left(1 + \frac{1}{2} - \frac{1}{n+1} - \frac{1}{n+2}\right) & \cdots (*) \\
        &= \frac{n(3n+5)}{4(n+1)(n+2)}
\end{align*}
}

一見問題なさそうですが、具体的な { n } の値について級数を書き下してみると、まず { n=3 } のとき

  { \displaystyle
\begin{align*}
    T_3 = \tfrac{1}{2}\left\{\left(\tfrac{1}{1} - \not\!\tfrac{1}{3}\right) + \left(\tfrac{1}{2}
        - \tfrac{1}{4}\right) + \left(\not\!\tfrac{1}{3} - \tfrac{1}{5}\right)\right\}
\end{align*}
}

これは問題なし。 次は n=2 のとき

  { \displaystyle
\begin{align*}
    T_2 = \tfrac{1}{2}\left\{\left(\tfrac{1}{1} - \tfrac{1}{3}\right) + \left(\tfrac{1}{2} - \tfrac{1}{4}\right)\right\}
\end{align*}
}

打ち消しあう項はありませんが、残る項が4つで (*) 式とは一致していて、まぁ許容範囲。 そして { n=1 } のとき

  { \displaystyle
\begin{align*}
    T_1 = \tfrac{1}{2}\left(\tfrac{1}{1} - \tfrac{1}{3}\right)
\end{align*}
}

えっと、これ (*) 式とは見た目全然違うよなぁ。 { n=1 } のとき (*) 式括弧内の第2項と第3項が打ち消しあって、値としては確かに一致してるんだけど、なんだか腑に落ちないと思うのは拙者だけ? { n=1 } の場合だけ別に計算して、{ n \ge 2 } の場合の式に含まれることを示した方がよくないのかなぁと疑問。 青チャート見たけど特に何も注意書きとか書かれてなかったなぁ*1。 { n=1 } の時も値が一致するのは常識なのかな?

追記 1
上記の場合の { n = 1 } のときにも成り立つことのもう少し一般的な証明(の手がかり)を『部分分数に分解して和を計算する級数について -双対性?-』に書きました。

追記 2
以下のようにすると場合分けしなくても導けるようです:

  { \displaystyle\begin{align*}
    T_n
        &= \frac{1}{2}\sum_{k=1}^n \left(\frac{1}{k} - \frac{1}{k+2}\right) \\
        &= \frac{1}{2}\sum_{k=1}^n \left\{\left(\frac{1}{k} + \frac{1}{k+1}\right)
          - \left(\frac{1}{k+1} + \frac{1}{k+2}\right)\right\} \\
        &= \frac{1}{2}\left\{\left(1 + \frac{1}{2}\right) - \left(\frac{1}{n+1} + \frac{1}{n+2}\right)\right\} \\
        &= \frac{n(3n+5)}{4(n+1)(n+2)}
\end{align*}}

おぉ、エレガント! 「+2」ではなく「+3」以上のときも打ち消し合う項を増やせば同様に計算できますね。 こちらを参考にしました。

チャート式基礎からの数学II+B

チャート式基礎からの数学II+B

*1:黄チャートは4項残る問題載ってなかった。 他のは見てない