倭算数理研究所

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36°の三角比

ちょっと後日使うので36°の三角比の値を求めてみます。 高校数学レベルの問題。 ここでは正五角形を使って図形的に求める幾何学的方法と、36°が満たす三角方程式を解く代数的方法代を見ていきます。

幾何学的方法

1辺の長さが1の正五角形を考えます。 対角線の長さ(すべて同じ長さ)を  { x } として、下図において
f:id:waman:20150827212544p:plain

互いに相似な青と赤の二等辺三角形に着目して

  { \displaystyle
\begin{align*}
  & 1 : x = x-1 : 1 \\
  \therefore & x^2 - x - 1 = 0
\end{align*}
}

この2次方程式2次方程式の解の公式を使って解くと、{ x > 1 } より

  { \displaystyle x = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} }

となります*1

次に下図のような直角三角形に注目すると

f:id:waman:20150827214342p:plain

底辺の長さは { \frac{x}{2} = \frac{1 + \sqrt{5}}{4} } となるので、余弦の定義より

  { \displaystyle \cos 36^\circ = \frac{1 + \sqrt{5}}{4} }

を得ます。 他の三角比の値は次節の代数的方法と同様に導ける(そちらでは正弦から余弦正接を導いてますが)のでここでは省略。

代数的方法

{ \theta = \frac{\pi}{5} \left( = 36^\circ \right) } は以下の  { \theta } についての三角方程式(三角比を含む方程式)を満たします:

  { \displaystyle \sin 5\theta = 0 \qquad\cdots (*)}

逆にこの方程式を { 0 \le \theta < 2\pi } の範囲で解くと

  { \displaystyle
  \theta = \frac{n\pi}{5} \qquad \left(n \in \textbf{N},\,0 \le n < 10\right)
}

という10個の解が得られます。 { \theta = 0,\,\pi } はほとんど自明と言っていい解で、またその他の解の三角比の値は  { \theta = \frac{\pi}{5},\,\frac{2\pi}{5} \left( = 36^\circ,\,72^\circ \right) } の値が分かれば簡単に得られます。 この2つの角度は第1象限内にあるので、三角比の値が正となります。 よって以下では三角比の値として正のもののみを考えます。

さて、このままでは { \frac{\pi}{5},\,\frac{2\pi}{5} } の三角比の値は分からないので、三角方程式 (*) の左辺を { \sin\theta }多項式に変形して*2、それを代数方程式として解いて { \sin\theta } の値を求めます。 まず左辺の { \sin 5\theta }三角関数

などを使って(他にも使ってますが)変形すると

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \sin 5\theta
    &= \sin3\theta \cos 2\theta + \cos 3\theta \sin 2\theta \\
    &= (3\sin\theta - 4\sin^3\theta)(1 - 2\sin^2\theta) + (4\cos^3\theta - 3\cos\theta)\cdot 2\sin\theta \cos\theta \\
    &= \sin\theta (3 - 4\sin^2\theta)(1 - 2\sin^2\theta) + 2\sin\theta \cos^2\theta (4\cos^2\theta - 3) \\
    &= \sin\theta \left\{ (3 - 4\sin^2\theta)(1 - 2\sin^2\theta) + 2(1 - \sin^2\theta) (1 - 4 \sin^2\theta) \right\} \\
    &= \sin\theta (16\sin^4\theta -20 \sin^2\theta + 5)
\end{align*}
}

よって三角方程式 (*) は

  { \displaystyle \sin\theta (16\sin^4\theta - 20 \sin^2\theta + 5) = 0 }

となります。 { \sin\theta = 0 \quad (\theta = 0,\,\pi) } の場合には興味が無いので、

  { \displaystyle 16\sin^4\theta - 20 \sin^2\theta + 5 = 0 }

を解けばよいことになります。 これは  { \sin^2\theta }2次方程式なので2次方程式の解の公式で簡単に解けて(正弦の値として正の値のもののみを考えてます)

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \sin^2 \theta
    &= \frac{10 \pm \sqrt{10^2 - 16 \cdot 5}}{16} \\
    &= \frac{5 \pm \sqrt{5}}{8} \\[4mm]
  \sin \theta
    &= \frac{\sqrt{5 \pm \sqrt{5}}}{2\sqrt{2}} \\
    &= \frac{\sqrt{10 \pm 2\sqrt{5}}}{4}
\end{align*}
}

を得ます。 大小関係を考えれば、複号が - の方が { \frac{\pi}{5} }、+ の方が  { \frac{2\pi}{5} } であることが分かります。 複号それぞれに対応する余弦の値も計算できて(やはり正の値のもののみを考えて)

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \cos^2\theta
    &= 1 - \sin^2\theta \\
    &= \frac{3 \mp \sqrt{5}}{8} \\[2mm]
  \cos\theta
    &= \sqrt{\frac{3 \mp \sqrt{5}}{8}}
    = \frac{\sqrt{6 \mp 2\sqrt{5}}}{4} \\
    &= \frac{\sqrt{5} \mp 1}{4}
\end{align*}
}

正接 { \tan\theta = \frac{\sin\theta}{\cos\theta} } からも求まりますが、 { 1 + \tan^2\theta = \frac{1}{\cos^2\theta} } から求めると複号が混ざらなくていいでしょう。

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \tan^2\theta
    &= \frac{1}{\cos^2\theta} - 1 \\
    &= \frac{8}{3 \mp \sqrt{5}} - 1 
    = 2(3 \pm \sqrt{5}) - 1 \\
    &= 5 \pm 2\sqrt{5} \\[2mm]
  \tan\theta
    &= \sqrt{5 \pm 2\sqrt{5}}
\end{align*}
}

以上をまとめると

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \sin \frac{\pi}{5} &= \frac{\sqrt{10 - 2\sqrt{5}}}{4} &
  \cos \frac{\pi}{5} &= \frac{\sqrt{5} + 1}{4} &
  \tan \frac{\pi}{5} &= \sqrt{5 - 2\sqrt{5}} \\[4mm]
  \sin \frac{2\pi}{5} &= \frac{\sqrt{10 + 2\sqrt{5}}}{4} &
  \cos \frac{2\pi}{5} &= \frac{\sqrt{5} - 1}{4} &
  \tan \frac{2\pi}{5} &= \sqrt{5 + 2\sqrt{5}}
\end{align*}
}

記事タイトル的に度数法で書き換えておくとしましょう。

  { \displaystyle
\begin{align*}
  \sin 36^\circ &= \frac{\sqrt{10 - 2\sqrt{5}}}{4} &
  \cos36^\circ &= \frac{\sqrt{5} + 1}{4} &
  \tan 36^\circ &= \sqrt{5 - 2\sqrt{5}} \\[4mm]
  \sin 72^\circ &= \frac{\sqrt{10 + 2\sqrt{5}}}{4} &
  \cos 72^\circ &= \frac{\sqrt{5} - 1}{4} &
  \tan 72^\circ &= \sqrt{5 + 2\sqrt{5}}
\end{align*}
}

{ 90° - \theta } の公式を使えば他に18°や54°の三角比なども求まりますね。 同じような式(正弦・余弦が入れ替わってるなど)になるので書きませんが。

*1:ちなみに、この値は黄金比 1.618... です。

*2:一般に、 { \sin n\theta }{ \sin\theta } の n 次式で書けることが知られてます。 また、n の偶奇(パリティ)と同じ次数の項しか含みません。