倭算数理研究所

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『Quantum Computing: A Gentle Introduction』の演習問題を解く 2.9

Quantum Computing: A Gentle Introduction (Scientific and Engineering Computation) (English Edition)

Quantum Computing: A Gentle Introduction (Scientific and Engineering Computation) (English Edition)

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Exercise 2.9. In the BB84 protocol, how many bits do Alice and Bob need to compare to have a 90 percent chance of detecting Eve's presence?

 { \{ |0\rangle,\,|1\rangle \} } を標準基底、 { \{ |+\rangle,\,|-\rangle \} }アダマール基底と呼びます。

アリスがボブに 1 qubit を送る場合を考えます。 説明を具体的にするために、アリスが送る qubit を  { |0\rangle } としましょう(系の対称性より、他の状態を送っても対応する状態を変えれば確率は同じになります)。

  • ボブが標準基底で測定する確率は50%。
  • ボブが標準基底で測定するとき、イヴが
    • 標準基底で測定する確率は50%で、このときイヴは正しい状態  { |0\rangle } を測定し、それをボブに送るとボブは盗聴されたことに気付かない
    • アダマール基底で測定する確率は50%で
      • 測定結果が  { |+\rangle } の場合は50%、これをボブに送ったとき、ボブが
        •  { |0\rangle } を測定する確率は50%で、このときボブは盗聴されたことに気付かない。
        •  { |1\rangle } を測定する確率は50%で、このときボブは盗聴されたことに気付く
      • 測定結果が  { |-\rangle } の場合は50%、以下は  { |+\rangle } を測定したときと同じ。

以上をもう少し詳しくして表にまとめると、アリスが  { |0\rangle } を送ったとき、ボブにとって

イヴ \ ボブ 0 1 + -
0 盗聴×
ビット値× (25%)
ビット破棄
(12.5%)
ビット破棄
(12.5%)
1
+ 盗聴×
ビット値○ (6.25%)
盗聴○
(6.25%)
ビット破棄
(12.5%)
- 盗聴×
ビット値○ (6.25%)
盗聴○
(6.25%)
ビット破棄
(12.5%)

となります。 

  • 「盗聴○/×」は盗聴されたことに気付く/気付かない、「ビット値○/×」はビット値の正しい値が知られない/知られるです(○×はボブにとっての善し悪しです)。
  • 空欄は起こらない場合です。
  • 括弧内はそれらの過程が起こる確率で、アリスとボブの基底が異なってビットを破棄する場合も含めて全部で100%になります。

イヴが盗聴していることに気付く確率
この問題では、イヴが正しいビットを得るかどうかは関係なく、ボブが盗聴されていることに気付くかどうかだけを気にするだけでかまいません。 イヴがアダマール基底で測定したときは、得られた測定値( { |+\rangle,\,|-\rangle })に関係なく50%の確率でボブが盗聴されていることに気付きます(表の太字の箇所)。 つまり

  • ボブが標準基底で測定する
  • イヴがアダマール基底で測定する
  • ボブが測定値として  { |1\rangle } を得る

のがそれぞれ50%なので、ボブが盗聴されていることに気付く確率は1 qubit につき12.5%  { \left(= \frac{1}{8}\right) } となります。 ただし、破棄するビットを含めない条件での条件付き確率は(ビットを破棄しない確率は 50% なので)

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{12.5\%}{50\%} = \frac{\frac{1}{8}}{\frac{1}{2}} = \frac{1}{4}
\end{align*}}

となります。

アリスとボブの基底が一致して残った  { n } 個の qubit を考えると、1つの qubit でもボブが盗聴に気付けば全体として盗聴に気付くので、ボブが盗聴に気付く確率  { P_n }

  { \displaystyle\begin{align*}
 P_n = 1 - \left(\frac{3}{4}\right)^n
\end{align*}}

となります。 これが90%を超えるのは

  •  { P_{8} \fallingdotseq 0.899887 }
  •  { P_{9} \fallingdotseq 0.9249153 }

より  { n = 9 } であることが分かります( { n = 8 } でほとんど90%に近いですが)。

補足

問題では問われていませんが、次問、次々問で別の両紙鍵配送プロトコルに対して問われている確率を、比較のために BB84 プロトコルでも計算しておきます。 計算するのは、イヴが確実に正しいビット値を得る割合とイヴが得た鍵でビット値が正しい平均値です。 また、比べる鍵としては、アリスとボブの鍵が異なっていて盗聴が感知されているときを含める場合と、アリスとボブの鍵が一致していて盗聴に気づいていない場合のそれぞれで計算します。

盗聴に気付かれているときも含める場合
この場合は、上記の表(アリスが  { |0\rangle } を送るとき)でボブが標準基底で測定する(よってビット値が0もしくは1)場合です。 ビット値が破棄されない条件下での条件付き確率を考えるので、全体の確率は 50% です。

イヴが確実に正しいビット値を得る確率は、イヴとボブが標準基底で測定する(つまりアリス、ボブ、イヴが全員同じ基底で測定する)場合で、表から25% です。 よって、求める条件付き確率は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{25}{50} = \frac{1}{2}
\end{align*}}

となり、50%であることが分かります。

また、イヴのビット値が正しい割合の平均値は、先ほどの確実に正しいビット値を得る場合(イヴが標準基底で測定する場合)に加えて、イヴがアダマール基底で測定して  { |+\rangle } を得る場合(6.25%×2 = 12.5%)も含めて

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{25 + 12.5}{50}
    &= \frac{\frac{1}{4} + \frac{1}{8}}{\frac{1}{2}} \\
    &= \frac{3}{4}
\end{align*}}

となり 75% であることが分かります。

盗聴に気付かれていない場合
盗聴に気づかれていない場合も先ほどの計算と大して変わりませんが、確率を計算する際に上記の表で太字にしている盗聴を関知される場合を除きます。 全体の確率は

  { \displaystyle\begin{align*}
  25 + 6.25\times2
    &= \frac{1}{4} + \frac{1}{16}\times 2 \\
    &= \frac{3}{8}
\end{align*}}

となります。

イヴが確実に正しいビット値を得る確率は、表から25% =  { \frac{1}{4} } なので、求める条件付き確率は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{\frac{1}{4}}{\frac{3}{8}} = \frac{2}{3}
\end{align*}}

となり、約66.7%であることが分かります。

また、イヴのビット値が正しい割合の平均値は、確実に正しいビット値を得る場合に加えて、イヴがアダマール基底で測定して  { |+\rangle } を得る場合(6.25% =  { \frac{1}{16} })も含めて

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{\frac{1}{4} + \frac{1}{16}}{\frac{3}{8}} 
    &= \frac{5}{6}
\end{align*}}

となり 約 83.3% であることが分かります。

【追記・修正】

  • 表を追記しました。
  • アリスとボブが盗聴に気付くために比べるビット数には、測定する基底が異なって破棄したビットは含めないようなので修正しました。
  • 「イヴの盗聴したビットの値が正しい確率」の箇所を追記しました。
  • 盗聴が気づかれている場合のイヴのビット値が正しい割合の箇所を追記しました。