特殊関数の公式を証明していくシリーズ(目次)。 『シュレディンガー方程式を解こう ~調和振動子~』に関する補足記事でもあります。 この記事ではなるべく生成・消滅演算子の前提知識なしにシュレディンガー方程式の解を求めてみます。
適当に変数を書き換えた調和振動子のシュレディンガー方程式は
でした。
【この記事の内容】
【参考】
- 『Quantum Mechanics (Dover Books on Physics)』
- Encyclopedia of Math 「Hermite function」
エルミートの微分方程式
シュレディンガー方程式の解として
の形のものを求めましょう。 の 微分を計算すると
これをシュレディンガー方程式に代入して
この に対する微分方程式は のとき、つまり
のときエルミート (Hermite) の微分方程式と呼ばれ(正確には下記の【補足】参照)、その解は(各 に対して)エルミート多項式 で表されることが知られています。
【補足】
正確には上記の微分方程式はエルミートの微分方程式とは言わず、 を整数として
の形のものエルミートの微分方程式を言います。 これらの微分方程式は単に と変数変換すれば互いに関係づけられます(エルミート多項式の規格化も少し変わりますが)。 この記事では上記の に対する微分方程式をエルミートの微分方程式と呼ぶことにします。
エルミートの微分方程式の級数解を求める
エルミートの微分方程式
の級数解を求めてみましょう。 の冪展開の係数 を以下のように定義します:
このとき
なので、エルミートの微分方程式から の漸化式が得られます:
さて、 のうち の 次の多項式となるものを とし、その の係数 を以下のように定義します:
当然、 は に関して と同じ漸化式を満たします:
が 次の多項式となるためには かつ となっていなければならないので、漸化式で として
を得ます。 これを使うと に対する漸化式は
となります。 この漸化式を繰り返し使って
(詳細は書いていませんが、値が0になる場合は から導かれます) が偶数なら の偶数だけの項が、 が奇数なら の奇数だけの項が残ることになります。
次に、 を偶数と奇数の場合に分けて を求めましょう。
が偶数のとき、 として
エルミートの微分方程式は線型なので全体にかかる定数 は任意にとれますが、エルミート多項式は ととり*1
となります。
が奇数のとき、 として
全体にかかる定数は ととり
となります。
冪の降順に書く & まとめて書く
上記の表式は が増えるのに合わせて の冪も増えるので、 の冪の昇順に並んでいます。 これを冪の降順に書き換えると が偶数と奇数の場合をある程度まとめて書けるので、少し変形しましょう。まず偶数の場合。 とおくと
奇数の場合も同様に計算できます。 とおいて
となって、和の上限以外は同じ式で書けましたね。 この上限もガウス記号を使って
とまとめて書けるので、結局
となります。
最初の数項
小さい に対して具体的な形を書き下してみましょう:
エルミート多項式がエルミートの微分方程式を満たすことを示す
上記の級数解のいくつかを書き下すとたしかにエルミート多項式になっているのですが、やはり全ての についてこれが成り立っていることを証明しておかないといけませんね。 ただし、普通に定義からやろうとするとナカナカ骨が折れるので、ここでは前回定義したエルミート多項式がエルミートの微分方程式を満たすことを示します。 これを示しても上記の級数解とエルミート多項式は定数倍だけ異なっていても問題ないのですが、どちらも の係数が になることが簡単に示せるので、結局これらが同じものであることがわかります。エルミート多項式の定義と満たす漸化式
エルミート多項式 は
で定義され、以下の2つの漸化式を満たすのでした:
公式1つ
上記の2つの漸化式の辺々を加えると、 が消えて
を得ます。
エルミート多項式がエルミートの微分方程式を満たす証明
エルミート多項式の定義より
よって
これは (*) 式で の置き換えをした式を使うと上式が消えることが分かります。 したがって
となり、エルミート多項式はエルミートの微分方程式を満たすことが示せました。
エルミート多項式を合流型超幾何関数で表す
エルミート多項式は合流型超幾何関数(こちらを参照)で表せることが知られています。 ということで実際に確かめてみましょう。 合流型超幾何関数の定義は
です。 が偶数か奇数かで表し方が異なるので、分けてやっていきます。 どちらも の冪の昇順に表されている表式から変形していきます。
まずは が偶数の場合。 全体にかかる因子 の部分はそのまま係数になります:
同様にして が奇数の場合。 こちらは を1つ括り出します:
結果だけを改めて書くと
となります。
第2種エルミート関数
エルミート多項式では級数解が多項式になるという条件を課していましたが、級数解が多項式ではなく無限級数となることを許すと、エルミートの微分方程式の解としてエルミート多項式以外の解を構築することができます。 この解となる級数を第2種エルミート関数 (Hermite function of the second kind) と言います。 が偶数・奇数の場合に分けてこの解を見ていきましょう。n が偶数の場合
展開係数 で が偶数のものを0とし(これはエルミート多項式となる)、奇数のもののみをとって とすると
この結果は二重階乗を使って書くと
となりますが、 と (つまり と )の大小関係で場合分けしないといけないので、この式を使って級数解を書き下すのはちょっと面倒です。 ここでは場合分けをしていない積の表式を使って、級数解を合流型超幾何関数で表すことにします。 求める級数解を とすると
全体にかかる定数を ととって(これは慣習と一致しているかどうか分からないので使う場合はご注意を)
となります。
n が奇数の場合
が奇数の場合も偶数の場合と同じように計算していきましょう。 展開係数 で が偶数のもののみをとって、 とすると
となります。 よって級数解を として
全体にかかる定数を ととって(慣習と一致していないかも?)
となります。
まとめ
以上の結果をまとめると
となります。 これらを第2種エルミート関数と呼びます。 ここでとった全体にかかる定数は、慣習と一致していないかもしれないので使う際はご注意を。
さて、これで大体エルミートの微分方程式に関連する話はいいでしょう。 これで1次元での量子力学的調和振動子はひとまず終了。 次は次元を上げて中心力ポテンシャルの系を解いていく予定。エルミートの微分方程式