特殊関数の公式を証明していくシリーズ(目次)。 今回はベッセルの微分方程式
のロンスキアン(『特殊関数のための微分方程式論 Quick Start ~ロンスキアン・自己随伴化~』参照)をベッセル関数の満たす公式から導きます。 ロンスキアンを微分方程式から直接計算する方法ではロンスキアンが に比例することが簡単に分かりますが、比例定数はベッセル関数の具体的な定義・性質からしか分かりません。
また、得られた結果を使って、ノイマン関数の定義が
のようになっている理由の1つも見ていきます。
【この記事の内容】
準備
『ベッセル関数(円柱関数)の公式あれこれ』で導いた公式の中で、今回使う公式を復習しておきます。 まずは微分の公式:
あと、ベッセル関数の積の冪級数展開の公式も使います:
2行目の式は のとき の項で という因子が出てくるので別にしてあります。
ロンスキアン
ベッセルの微分方程式の独立な2つの解を としたとき、ロンスキアン は
で与えられます。 これを「準備」で見たベッセル関数の微分公式を使って変形していくのですが、微分公式には2つあったので
をそれぞれ使うことにすると( が1以上の正の数とき、パラメータの絶対値が小さい方が出てくる式)、ロンスキアンは
となります。 括弧内第1項については
また第2項については
さらにこの式を項別に見ていくと、第1項について、ガンマ関数の相反公式
を使うと
また第2項について とおくと
よって
となり、結局ロンスキアンは
となります。
ノイマン関数との関係
前節の結果より、 を2つの独立な解としたロンスキアンは
となっていましたが、両辺に をかけて
また、括弧内に に比例する項を加えても右辺には影響しないので(ロンスキアンが行列式をもとに定義されていたことからも明らか)、 と独立な解として の代わりに
を用いることができます。 ここで は に依存しない定数で、以下の条件を満たすようにとります:
- が整数 のとき、( なので) となる
- が半奇数のとき、( が独立な解となるように)0となる(球ベッセル関数等との兼ね合い)
これらの条件を満たすためには ととればよいので、このように をとったものを をノイマン関数と定義します:
と を2つの独立な解としたときのロンスキアンは
となります。 右辺の因子 もノイマン関数に吸収させておけばよさそうな気もしますが、慣習的にそうなってないようです(球ベッセル関数・球ノイマン関数はそうなるように定義してあるようです)。
ロンメルの公式
前節までの結果でベッセルの微分方程式のロンスキアンとノイマン関数の定義の由来を見たので、この記事の目的は達したのですが、ベッセル関数はロンスキアンに似た形のロンメル (Lommel) の公式を満たすので、これをついでに導いておきます。 ロンメルの公式は をベッセル関数の 階導関数として
の形をしています(ただし とします)。 ロンスキアンは の場合です。
ロンメルの公式を導く 1
まず簡単に分かるのは の場合。 積の微分公式を使って
同じように、 の場合は の場合が分かれば、微分を計算するだけで求まります。
これとそれほど違いなく、積の微分公式を使って計算できるものもたくさんあります。 後で導くように
が成り立つので、
を得ます。
ちょっとゴチャゴチャしてきたので、計算できる公式を表で見てみましょう:
m \ n | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
---|---|---|---|---|---|
0 | 0 | ■ | ■ | ||
1 | - | 0 | ■ | ||
2 | - | - | 0 | ||
3 | - | - | - | 0 | |
4 | - | - | - | - | 0 |
赤の箇所は、その左と左下の青の部分を知れば積の微分公式を使って計算できます。 他のマスも同様。 最初に見た簡単な場合( など)は、 のとき0となることから左下が0となり、左の箇所だけが分かればいい場合となっています。 結局、積の微分公式を使って分からない箇所は、 の の部分だけとなります( はロンスキアン):
これを一般的に求めるのは面倒そうなので、最初の数個だけ求めることにします。 まずは必要な公式から。
高階導関数のある公式
『ベッセル関数(円柱関数)の公式あれこれ』で示したように、ベッセル関数の微分公式には2つの表式がありました:
を含む式 (1) をさらに微分すると
ここで には (2) 式を、 には (1) 式を使ってさらに変形すると
となり、 で表すことができます。 同様のことを繰り返し行うと を で表すことができます。 これを
とおいて( は に依存しますが、簡潔にするため引数等を省略しています)上記と同様の計算をすると
となり、 は以下の初項・漸化式を満たします:
もしくは行列形式で書いて
となります。 この数列の一般項を求めるのは大変そうなので、最初の数項を具体的に計算するだけにしておきましょう:
これらの結果を使って、 を を使って表す公式が得られますが、『ベッセル関数(円柱関数)の公式あれこれ』で示した漸化式 を使うと、 を を使って表す公式も得られます:
以上を踏まえて
式を眺めてれば一般項が見えてきそうですがここでは深入りしないことにしましょう。 2つの式で の係数は にしたもの、 の係数は符号を変えたものになっています。
ロンメルの公式を導く 2
上記で導いた公式を使って を計算すると(ロンスキアンを導いたときに使った公式も使って)
以上で示したロンメルの公式は、ロンスキアンの場合と同様、両辺に をかけてベッセル関数とノイマン関数との公式にすることができます。
まとめ
ベッセル関数
ベッセル関数とノイマン関数