倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

逆正接関数・逆余接関数の冪級数展開

もう少し三角関数の公式シリーズ(目次)。 今回は、前回導いた逆正接関数・逆正接関数の高階導関数を用いて、逆正接関数・逆余接関数の( { x = 0 } の周りでの)冪級数展開を導きます(高階導関数を使わずに簡単に導く方法もあります)。 

正接関数・逆余接関数の高階導関数は( { n \geqq 1 } として)以下で与えられるのでした:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d^n}{dx^n}\left(\tan^{-1}x\right)
    &= (n-1)! \cos^n\left(\tan^{-1}x\right) \sin \left\{n\left(\tan^{-1}x+\frac{\pi}{2}\right)\right\} \\[4mm]
  \frac{d^n}{dx^n}\left(\cot^{-1}x\right)
    &= (-1)^n(n-1)! \sin^n\left(\cot^{-1}x\right) \sin \left(n\cot^{-1}x\right)
\end{align*}}

正接関数  { \tan^{-1}x } の冪級数展開

 { \tan^{-1}0 = 0 } より

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left[\frac{d^n}{dx^n}\left(\tan^{-1}x\right)\right]_{x=0}
    &= (n-1)! \sin \frac{n\pi}{2} \\[2mm]
    &= \begin{cases}
        (-1)^{m-1}(2m-2)! & (n = 2m-1) \\[4mm]
        0 & (n= 2m)
      \end{cases}
\end{align*}}

ただし  { m=1,\,2,\,3,\cdots }。 よって

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}x
    &= \sum_{m=1}^\infty (-1)^{m-1}(2m-2)!\frac{x^{2m-1}}{(2m-1)!} \\[2mm]
    &= \sum_{m=1}^\infty (-1)^{m-1}\frac{x^{2m-1}}{2m-1}
 \\[2mm]
    &= x - \frac{x^3}{3} + \frac{x^5}{5} - \frac{x^7}{7} + \cdots
\end{align*}}

となります。

別の導出方法
正接関数の導関数

  { \displaystyle\begin{align*}
  (\tan^{-1} x)' = \frac{1}{1+x^2}
\end{align*}}

より

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}x &= \int \frac{dx}{1+x^2}
\end{align*}}

となりますが、 { \frac{1}{1+x^2} } は簡単に冪級数展開できて

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{1}{1+x^2} = \sum_{n=0}^\infty (-1)^n x^{2n}
\end{align*}}

なので、結局

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}x
    &= \int \sum_{n=0}^\infty (-1)^n x^{2n} dx \\
    &= \sum_{n=0}^\infty (-1)^n \frac{x^{2n+1}}{2n+1}
      \qquad(\because \tan^{-1}0 = 0) \\
    &= \sum_{n=1}^\infty (-1)^{n-1} \frac{x^{2n-1}}{2n-1}
\end{align*}}

となって、上記と同じ結果が得られます。

対数関数との関係
 { \ln(1+x) } の冪級数展開は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \ln (1+x)
    &= \sum_{m=1}^\infty (-1)^m\frac{x^m}{m} \\
    &= x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots
\end{align*}}

で与えられ、上記の逆正接関数の冪展開と似てますね。 この関係は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan\theta = \frac{1}{i}\frac{e^{2i\theta}-1}{e^{2i\theta}+1}
\end{align*}}

から得られる式

  { \displaystyle\begin{align*}
  \theta = -\frac{i}{2}\Big\{\ln(1+i\tan\theta) - \ln(1-i\tan\theta)\Big\}
\end{align*}}

 { \theta = \tan^{-1}x } とした公式

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}x &= -\frac{i}{2}\Big\{\ln(1+ix) - \ln(1-ix)\Big\}
\end{align*}}

から分かります。

逆余接関数  { \cot^{-1}x } の冪級数展開

逆余接関数の高階導関数は逆正接関数のものに負符号を付けただけのものなので、逆余接関数の冪級数展開は逆正接関数の展開から導けますが、一応、逆余接関数の高階導関数から導いて見ましょう。

簡単のため、逆余接関数の値域は  { \left[0,\,\pi\right] } としましょう。  { \cot^{-1}0 = \frac{\pi}{2} } より

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left[\frac{d^n}{dx^n}\left(\cot^{-1}x\right)\right]_{x=0}
    &= (-1)^n(n-1)! \sin \frac{n\pi}{2} \\[2mm]
    &= \begin{cases}
        (-1)^m(2m-2)! & (n = 2m-1) \\[4mm]
        0 & (n= 2m)
      \end{cases}
\end{align*}}

ただし  { m=1,\,2,\,3,\cdots }。 これは(当然のことながら)逆正接関数の場合に負符号を付けたものになります。 これを使って逆余接関数の冪級数展開を求めると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \cot^{-1}x
    &= \frac{\pi}{2} + \sum_{m=1}^\infty (-1)^m\frac{x^{2m-1}}{2m-1} \\[2mm]
    &= \frac{\pi}{2} - x + \frac{x^3}{3} - \frac{x^5}{5} + \frac{x^7}{7} + \cdots
\end{align*}}

となります。

別の値域の場合
 { x < 0 } のときに  { \pi } を引いて値域を  { \left[-\frac{\pi}{2},\,\frac{\pi}{2}\right] } にする流儀では

  { \displaystyle\begin{align*}
  \cot^{-1}x 
    &= \begin{cases}
      \displaystyle{ \frac{\pi}{2} + \sum_{m=1}^\infty (-1)^m\frac{x^{2m-1}}{2m-1} } & (x > 0) \\[4mm]
      \displaystyle{ -\frac{\pi}{2} + \sum_{m=1}^\infty (-1)^m\frac{x^{2m-1}}{2m-1} } & (x < 0)
    \end{cases}
\end{align*}}

となります。

まとめ

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}x
    &= \sum_{n=1}^\infty (-1)^{n-1}\frac{x^{2n-1}}{2n-1} \\[2mm]
    &= x - \frac{x^3}{3} + \frac{x^5}{5} - \frac{x^7}{7} + \cdots \\[4mm]
  \cot^{-1}x
    &= \frac{\pi}{2} + \sum_{n=1}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n-1}}{2n-1}
    \qquad\left(= \frac{\pi}{2} - \tan^{-1}x\right) \\[2mm]
    &= \frac{\pi}{2} - x + \frac{x^3}{3} - \frac{x^5}{5} + \frac{x^7}{7} + \cdots
\end{align*}}

ただし  { \cot^{-1}x } の値域は  { \left[0,\,\pi\right] } とします。

【追記】

  • 級数展開の別の導出方法を追記しました。

級数・フーリエ解析 (岩波 数学公式 2)

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