もう少し三角関数の公式シリーズ(目次)。 今回は逆三角関数の定義域を実数全体に拡張することを考えます。
三角関数の正接・余接は値域が実数全体なのでその逆関数の定義域は問題なく実数全体になっているのですが、正弦・余弦は値域が に限定されているのでその逆関数の定義域もその範囲に限定されます。 ただし、取り得る値に複素数を許すなら、定義域を実数全体に拡張することができます。 例えれば、実関数としての無理関数 は で定義されて の値をとりますが、 が複素数になることを許すなら定義域を にも拡張できるのと同じです。
導く公式は、 を逆三角関数(正弦・余弦)として、実数 に対して
を満たす実数 を で表す式です。
【目次】
逆正弦関数
を実数とし、 ( は実数、*1)とおきます。 両辺の正弦をとると
となり、最初と最後の式の実部・虚部を比べると
を得ます。 (2) 式が満たされるためには のいずれかが満たされていればいいことが分かります。 それぞれの場合を見ていきましょう。
- の場合、(1) 式より なので、 なら解があって 。
- の場合、(1) 式より なので、 なら解があって 。 複号は分岐があることを意味しますが、慣習的に の方をとり*2 となります。
- の場合、(1) 式より なので、 なら解があって 。 ここでは逆正弦関数が奇関数になるようにとって 。
以上をまとめると
【別導出】
の表式を『複素関数としての逆三角関数』で得た式
と『逆双曲線関数を対数関数で表す』で得た式
から導いてみます。 まず のとき、(i) 式より
同様にして のとき、(ii) 式より
逆余弦関数
( は実数、)とおきます。 両辺の余弦をとると
最初と最後の式の実部・虚部を比べると
(4) 式が満たされるためには のいずれかが満たされていればいいことが分かります。 それぞれの場合を見ていきましょう。
- の場合、(3) 式より なので、 なら解があって 。 複号は の分岐をとって 。
- の場合、(3) 式より なので、 なら解があって 。 複号は が奇関数になるようにとって
- の場合、(3) 式より なので、 なら解があって 。
以上をまとめると
注
複号は逆正弦関数との関係 が満たされるようにとっています。 そもそもこの公式を使うと逆正弦関数の表式から直ちに逆余弦関数の表式も導けます。【別導出】
逆正弦関数の場合と同じように、複素関数としての逆余弦関数と逆三角関数の対数関数表示から上記の表式を導いてみましょう。 複素関数としての逆余弦関数は
と表されます。 を実数として、 のとき (iv) 式より
また、 のとき、(iii) 式より
逆正接関数・逆余接関数
正接・余接関数の逆関数はもともと定義域が実数全体です。逆正割関数・逆余割関数
まずは正割。 より なので
余割も同様。 より なので
まとめ
【修正】
- 分岐のとりかたが間違っていたので修正しました。
- 逆正弦関数、逆余弦関数の別導出を追記しました。
*1:この範囲は、実際には関数の値が一意に定まるように後で決定すべきものですが、簡単のため、三角関数の周期性を考慮して最初から指定しています。 逆余弦関数の場合も同様。
*2:『複素関数としての逆三角関数』の記事参照。