倭算数理研究所

科学・数学・学習関連の記事を、「倭マン日記」とは別に書いていくのだ!

2次元のケプラー問題 ~楕円軌道の場合~

古典力学のいろいろな系で運動方程式を解いていくシリーズ(目次)。 今回は『2次元のケプラー問題』記事の続きで、 { E < 0 } の場合を行います。 このとき、離心率  { e } { e < 1 } となり、楕円軌道となります。

動径方向の運動

2次元のケプラー問題』より、動径  { r } と時刻  { t }

  { \displaystyle\begin{align*}
  t - t_0 &= \sqrt{\frac{m}{2}} R \\
  R &= \int \frac{rdr}{\sqrt{E\left(r+\frac{k}{2E}\right)^2 - \frac{k^2}{4E}e^2}} \qquad
    \left(e = \sqrt{1 + \frac{2E\ell^2}{k^2m}}\right)
\end{align*}}

で関係付けられているのでした。 ここで  { E' = -E \, (> 0) } と『2次元のケプラー問題の軌跡』で導入した楕円軌道の半長軸の長さ  { a = -\frac{k}{2E} = \frac{k}{2E'} } を用いて  { R } を書き換えると

  { \displaystyle\begin{align*}
  R &= \int \frac{rdr}{\sqrt{-E'\left(r-\frac{k}{2E'}\right)^2 + \frac{k^2}{4E'}e^2}} \\
     &= \int \frac{rdr}{\sqrt{-E'\left(r-a\right)^2 + E'a^2e^2}} \\
     &= \frac{1}{\sqrt{E'}}\int \frac{rdr}{\sqrt{a^2e^2 - \left(r-a\right)^2}} \\
     &= \sqrt{\frac{2a}{k}}\int \frac{rdr}{\sqrt{a^2e^2 - \left(r-a\right)^2}} \qquad \left(\because E' = \frac{k}{2a}\right)
\end{align*}}

ここで平方根の中が  { 1-\cos^2\psi } に比例するように*1、変数  { \psi } を以下のように導入しましょう:

  { \displaystyle\begin{align*}
  r - a &= -ae\cos \psi \qquad \left(r = a (1 - e\cos\psi),\quad dr = ae\sin\psi d\psi\right)
\end{align*}}

この  { \psi }離心近点離角 (eccentric anomaly) と呼ばれ、

  •  { \psi = 0 } { r = a(1-e) } となり、楕円軌道の近日点となる
  •  { \psi = \pi } { r = a(1+e) } となり、楕円軌道の遠日点となる

という性質があります。 この変数変換を施して  { R }積分を実行すると

  { \displaystyle\begin{align*}
  R &= \sqrt{\frac{2a}{k}}\int \frac{a(1-e\cos\psi)\cdot ae\sin\psi d\psi}{ae\sin\psi} \\
     &= \sqrt{\frac{2a}{k}}\;a\int (1-e\cos\psi) d\psi \\
     &= \sqrt{\frac{2a^3}{k}}\left(\psi - e\sin\psi \right)
\end{align*}}

 { t - t_0 = \sqrt{\frac{m}{2}} R } だったので、結局

  { \displaystyle\begin{align*}
  t - t_0 = \sqrt{\frac{a^3m}{k}}\left(\psi - e\sin\psi \right) \qquad
    \left(\psi = \cos^{-1}\left(\frac{a-r}{ae}\right)\right)
\end{align*}}

となります。

初期条件として  { t=0 } のとき  { r = a(1-e) }(このとき  { \psi = 0 }) となることを課すと  { t_0 = 0 } を得ます。 よって

  { \displaystyle\begin{align*}
 t = \sqrt{\frac{a^3m}{k}}\left(\psi - e\sin\psi \right) \qquad
    \left(\psi = \cos^{-1}\left(\frac{a-r}{ae}\right)\right)
\end{align*}}

偏角の時間依存性を求めるには、これを  { r } について解いて  { \frac{d\theta}{dt} = \frac{\ell}{mr^2} } に代入して微分方程式を解く必要があるのですが、上記の式を  { r } について解こうとしても既知の関数では書けないので、この方法ではこれ以上計算できません。 ただし、軌道の方程式を使えば偏角と時間の関係を導くことができます。 これは後ほど。

形式的に動径を時間の関数として表す
上記の結果を動径  { r } について解くのは手ではできませんが、少々形式的に解いていってみましょう。 まず、式を簡単にするため、 { \omega_- = \sqrt{\frac{k}{a^3m}} } とおきましょう(添字の「-」は  { E < 0 } の意)。 このとき、上記の関係式は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \omega_-\; t = \psi - e\sin\psi
\end{align*}}

となります。 ここで右辺の  { \psi } についての関数  { \psi - e\sin\psi }逆関数 { \psi_e(x) } と定義しましょう:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \psi_e^{-1}(x) &= x - e\sin x
\end{align*}}

このとき、 { \psi } (離心近点離角)を時間の関数として書けて  { \psi = \psi_e(\omega_-\; t) } となります。  { r = a (1 - e\cos\psi) } だったので、これを使うと動径  { r } を時間の関数として書けて

  { \displaystyle\begin{align*}
  r(t) &= a(1 - e\cos \psi_e(\omega_-\; t)) \qquad \left(\omega_- = \sqrt{\frac{k}{a^3m}}\right)
\end{align*}}

を得ます。

ケプラーの第3法則
 { t } { \psi } の関係式

  { \displaystyle\begin{align*}
  \omega_-\; t = \psi - e\sin\psi
\end{align*}}

を思い出すと、 { t } が増加するとともに  { \psi } は概ね比例して増加し、そこに周期  { 2\pi } (振幅  { e } )の振動が加わっているような変化をすることが分かります。 これを踏まえて、関数  { \psi_e(x) } には以下の性質があることが分かります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \psi_e(x + 2\pi) &= \psi_e(x) + 2\pi
\end{align*}}

実際、

  { \displaystyle\begin{align*}
  \psi_e^{-1}(\psi_e(x) + 2\pi)
    &= \psi_e(x) + 2\pi - e\sin\left(\psi_e(x) + 2\pi\right) \\
    &= \psi_e(x) - e\sin \psi_e(x) + 2\pi \\
    &= x + 2\pi \\[2mm]
  \therefore \, \psi_e(x) + 2\pi &= \psi_e(x + 2\pi)
\end{align*}}

となります。 これと前節の結果  { r(t) = a(1-e\cos\psi_e(\omega_-\; t)) } から、(楕円軌道なのでまぁ当たり前だけど) { r(t) } { t } の周期関数で、その周期を  { T } とすると

  { \displaystyle\begin{align*}
  T &= \frac{2\pi}{\omega_-} \\
     &= 2\pi\sqrt{\frac{a^3m}{k}} \\[2mm]
  \therefore \, T^2 &= \frac{4\pi^2m}{k} a^3
\end{align*}}

となっていることが分かります。 太陽系の惑星の運動では  { k = GMm } { G }万有引力定数、 { M } は太陽の質量、 { m } は惑星の質量)だったので、これは

  { \displaystyle\begin{align*}
  T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} a^3
\end{align*}}

となり、惑星の公転周期  { T } の2乗と楕円軌道の(半)長軸  { a } の3乗との比が、惑星(の質量等)に依らず一定であるというケプラーの第3法則を導きます。

偏角方向の運動

次は『2次元のケプラー問題』の記事で書いた、偏角方向の運動を運動方程式から解く方法の続き。 ただし、次節で見る、動径方向の運動と軌道の方程式から求める方法の方がかなり簡単です。

2次元のケプラー問題』より、偏角  { \theta } と時刻  { t } には以下の関係があるのでした:

  { \displaystyle\begin{align*}
  t - t_0 &= \frac{2a^2m(1-e^2)^2}{\ell}\Theta \\
  \Theta &= \int \frac{(1+s^2)ds}{\left[1+e+(1-e)s^2\right]^2} & & \left(s = \tan\frac{\theta}{2}\right)
\end{align*}}

ただし、楕円軌道では  { A = a(1-e^2) } であることを使いました(『2次元のケプラー問題の軌跡』参照)。 ここで  { a } は動径方向の運動の箇所でも出てきた楕円軌道の半長軸で、 { e } は離心率です。

積分  { \Theta } について、分母が  { \left(1+p^2\right)^2 } に比例するように、変数  { p } を以下のように導入しましょう:

  { \displaystyle\begin{align*}
  s &= \sqrt{\frac{1+e}{1-e}} \, p   & & \left(ds = \sqrt{\frac{1+e}{1-e}} \, dp\right)
\end{align*}}

このとき、

  { \displaystyle\begin{align*}
  \Theta
    &= \frac{1}{(1+e)^2}\sqrt{\frac{1+e}{1-e}}\, \int \frac{1+\frac{1+e}{1-e} p^2}{\left(1+ p^2\right)^2}dp \\
    &= \frac{1}{(1+e)^2(1-e)}\sqrt{\frac{1+e}{1-e}}\,\int \frac{1-e+(1+e) p^2}{\left(1+ p^2\right)^2} dp \\
    &= \frac{1}{\sqrt{(1-e^2)^3}}\,\int \frac{-2e+(1+e)(1+ p^2)}{\left(1+ p^2\right)^2} dp \\
    &= \frac{1}{\sqrt{(1-e^2)^3}}
      \left(-2e\int \frac{dp}{\left(1+ p^2\right)^2}  + (1+e)\int \frac{dp}{1+ p^2}\right) \\
\end{align*}}

2つの  { p } 積分は変数変換  { p = \tan\varphi \quad\left(dp = \frac{d\varphi}{\cos^2\varphi}\right) } によって実行できます:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \int \frac{dp}{1+ p^2}
    &= \int \frac{1}{1+\tan^2\varphi}\cdot \frac{d\varphi}{\cos^2\varphi} \\
    &= \int d\varphi \\
    &= \varphi \\
    &= \tan^{-1}p
\end{align*}}

  { \displaystyle\begin{align*}
  \int \frac{dp}{\left(1+ p^2\right)^2}
    &= \int \frac{1}{\left(1+\tan^2\varphi\right)^2}\cdot \frac{d\varphi}{\cos^2\varphi} \\
    &= \int \cos^2\varphi d\varphi \\
    &= \int \frac{1+\cos 2\varphi}{2} d\varphi \\
    &= \frac{1}{2}\varphi + \frac{1}{4}\sin 2\varphi \\
    &= \frac{1}{2}\varphi + \frac{\tan\varphi}{2(1+\tan^2\varphi)} \qquad
      \left(\because \sin 2\varphi = 2\sin\varphi \cos\varphi = 2\tan\varphi \cos^2\varphi\right) \\
    &= \frac{1}{2}\tan^{-1} p + \frac{p}{2(1+p^2)}
\end{align*}}

これらをまとめると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \Theta
    &= \frac{1}{\sqrt{(1-e^2)^3}}\left(\tan^{-1}p - \frac{ep}{1+p^2}\right)
\end{align*}}

括弧内の2つの項を  { p = \sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;s = \sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}} を使って変数  { \theta } で表すと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \tan^{-1}p
    &= \tan^{-1}\left(\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}\right) \\[2mm]
  \frac{ep}{1+p^2}
    &= \frac{e\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}}{1+\frac{1-e}{1+e}\tan^2\frac{\theta}{2}} \\
    &= \frac{e\sqrt{1-e^2}\;\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}}
        {(1+e)\cos^2\frac{\theta}{2}+(1-e)\sin^2\frac{\theta}{2}} \qquad
      \left(\textrm{分母分子に}\, (1+e)\cos^2\frac{\theta}{2}\,\textrm{をかけた}\right)\\
    &= \frac{\frac{1}{2}e\sqrt{1-e^2}\;\sin\theta}
        {\cos^2\frac{\theta}{2} + \sin^2\frac{\theta}{2} + e\left(\cos^2\frac{\theta}{2} - \sin^2\frac{\theta}{2}\right)} \\
    &= \frac{e\sqrt{1-e^2}}{2} \frac{\sin\theta}{1 + e\cos\theta}
\end{align*}}

よって

  { \displaystyle\begin{align*}
  \Theta
    &= \frac{1}{\sqrt{(1-e^2)^3}}\left(
      \tan^{-1}\left(\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}\right)
      - \frac{e\sqrt{1-e^2}}{2} \frac{\sin\theta}{1 + e\cos\theta}\right) \\[2mm]
  \therefore\, t - t_0
    &= \frac{2a^2m\sqrt{1-e^2}}{\ell}\left(
      \tan^{-1}\left(\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}\right)
      - \frac{e\sqrt{1-e^2}}{2} \frac{\sin\theta}{1 + e\cos\theta}\right)
\end{align*}}

初期条件として  { t = 0 } のとき  { \theta = 0 } となることを課すと  { t_0 = 0 } となるので

  { \displaystyle\begin{align*}
  t &= \frac{2a^2m\sqrt{1-e^2}}{\ell}\left(
      \tan^{-1}\left(\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}\right)
      - \frac{e\sqrt{1-e^2}}{2} \frac{\sin\theta}{1 + e\cos\theta}\right)
\end{align*}}

を得ます。 ここで  { e = \sqrt{1+\frac{2E\ell^2}{k^2m}} = \sqrt{1-\frac{\ell^2}{akm}} } に注意すると、右辺の係数は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{2a^2m\sqrt{1-e^2}}{\ell}
    &= 2\sqrt{\frac{a^3m}{k}} \\
    &= \frac{2}{\omega_-}
\end{align*}}

となっているので( { \omega_- } は動径方向の運動で出てきたもの)、上式から

  { \displaystyle\begin{align*}
  \omega_-\; t 
    &= 2\tan^{-1}\left(\sqrt{\frac{1-e}{1+e}}\;\tan\frac{\theta}{2}\right)
      - \frac{e\sqrt{1-e^2} \; \sin\theta}{1 + e\cos\theta}
\end{align*}}

を得ます。 これを逆に解く、というのはちょっと無理っぽいですね。

別の形
前節では偏角方向の運動方程式から  { \theta } { t } の関係を導きましたが、動径  { r } { t } の関数として表した式と軌道の方程式からも導け、積分をしなくていい分かなり簡単です。

軌道の方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  r = \frac{a(1-e^2)}{1+e\cos\theta}
\end{align*}}

 { \cos\theta } について解いて

  { \displaystyle\begin{align*}
  \cos\theta = \frac{a(1-e^2) - r}{er}
\end{align*}}

ここに、動径方向の結果  { r = a(1-e\cos\psi_e(\omega_-\; t)) } を使うと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \cos\theta
    &= \frac{a(1-e^2) - a(1-e\cos\psi_e(\omega_-\; t))}{ea(1-e\cos\psi_e(\omega_-\; t))} \\
    &= \frac{\cos\psi_e(\omega_-\; t) - e}{1 - e\cos\psi_e(\omega_-\; t)} \\[2mm]
  \therefore \, \theta(t)
    &= \cos^{-1}\left(\frac{\cos\psi_e(\omega_-\; t) - e}{1 - e\cos\psi_e(\omega_-\; t)}\right)
\end{align*}}

となります。 うーん、前節の計算は何だったのかw まぁ、これが前節で導いた結果と等しくなるかどうかは確かめてませんが・・・

まとめ

結局、 { E < 0 } で質点が楕円軌道を描く場合の運動は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{cases}
    r(t) &= a(1-e\cos\psi_e(\omega_-\; t)) \\[2mm]
    \theta(t) &= \cos^{-1}\left(\dfrac{\cos\psi_e(\omega_-\; t) - e}{1 - e\cos\psi_e(\omega_-\; t)}\right)
  \end{cases}
\end{align*}}

ここで

  { \displaystyle\begin{align*}
  e &= \sqrt{1+\frac{2E\ell^2}{k^2m}}, &
  a &= -\frac{k}{2E}, &
  \omega_- &= \sqrt{\frac{k}{a^3m}}, &
  \psi_e^{-1}(x) &= x - e\sin x
\end{align*}}

です。

【追記・修正】

  •  { \omega_- } の定義が間違っていたので修正しました。
  • ケプラーの第3法則の箇所に追記しました。
  • 積分  { \Theta } を実行した結果得られる  { t } { \theta } の関係式を  { \omega_- } を使って書き換えました。
  • 前記事『2次元のケプラー問題』の偏角方向の運動の式が因子2だけ間違っていたので、それに伴って結果を修正しました。 「まとめ」の箇所の式には影響なし。

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*1: { 1-\sin^2 \psi } に比例するように  { \psi } を決めても積分自体は可能。