座標演算子と運動量演算子の交換関係から始めて、生成・消滅演算子、個数演算子、個数演算子の固有状態などを簡単に見ていきます。 交換関係の計算には「角運動量演算子の交換関係」の記事で導いた交換関係の公式(反可換性、分配法則、ライプニッツ則)なども使っています。
【この記事の内容】
座標・運動量演算子とハミルトニアン
エルミートな演算子である座標演算子 と運動量演算子 は交換関係
を満たします。 また、調和振動子のハミルトニアン は、系の単位を適当にとってパラメータを変数に含めれば以下のように表すことができます:
生成・消滅演算子
座標演算子と運動量演算子から、生成演算子、消滅演算子を定義します。 これらはエルミートではなくなりますが、互いにエルミート共役の関係にあります。定義
消滅演算子 (annihilation operator, destruction operator) とそのエルミート共役として定義される生成演算子 (createion operator) は、座標・運動量演算子を用いて以下のように定義されます:
交換関係
なぜそのような名前になっているかはおいておいて、これらの演算子の交換関係を計算してみましょう:
座標・運動量演算子の交換関係とは事なり、生成・消滅演算子間の交換関係は実数の1となります。 生成演算子同士、消滅演算子同士の交換関係は、自分自身との交換関係なので、当然0となります。
ハミルトニアン
ハミルトニアンを生成・消滅演算子を使って表しましょう。 実数 に対する公式 を思い浮かべれば、ハミルトニアンは で表されそうですが、生成・消滅演算子が交換しないために余分の項が出てきます。 を計算すると
よって
となります。 ちなみに
より
とも書けますが、あまり使われないかと思います。
個数演算子
生成・消滅演算子を使って、個数演算子を定義します。 これは定数項を除いてハミルトニアンそのものです。定義
個数演算子(数演算子 number operator) は
で定義されます。
ハミルトニアンとの関係
ハミルトニアンは個数演算子を使って以下のように書けます:
また、計算の必要も無く、個数演算子はハミルトニアンと交換することが分かります:
つまり、個数演算子とハミルトニアンは同時対角化可能ということですね。 後ほど、個数演算子と生成・消滅演算子を使ってハミルトニアンの固有状態を構成します。
生成・消滅演算子との交換関係
個数演算子と生成・消滅演算子との交換関係を計算しておきましょう:
同様にして
交換関係の定義より、これらは以下のような関係を導きます:
これらの関係は個数演算子(とハミルトニアン)の固有状態を作る際に使います。
個数演算子の固有状態
生成・消滅演算子を使って個数演算子固有状態を作ることで、ハミルトニアンの固有状態、つまりエネルギー固有状態を構築します。基底状態
消滅演算子によって消される状態 が存在すると仮定します:
この状態は規格化されているとします()。 この状態に個数演算子 を作用させると当然消えるので、状態 は個数演算子 の固有値0に属する固有状態となります(なので状態のラベルに0を使ってました)。 また、ハミルトニアン を作用させると
となり、この状態はエネルギー のエネルギー固有状態であることも分かります。
第1励起状態
を規格化定数として、状態 を
と定義します。 この状態に個数演算子 を作用させると
よって は個数演算子の固有値1に属する固有状態であることが分かります。 また、ハミルトニアンを作用させると
となり、 はエネルギー のエネルギー固有状態です。 規格化定数 の値も求めておきましょう。
よって となります。 したがって、状態 は最終的に以下のようになります:
一般の固有状態
の場合を参考にして、状態 を以下のように帰納的に定義します:
ここで は規格化定数です。 状態 は
を満たすと仮定し、 が を満たすことを示しましょう。
よって、確かに は個数演算子の固有値 に属する固有状態であることが分かりました。 また
より、状態 はエネルギーが のエネルギー固有状態であることも分かります。 これより、調和振動子のエネルギーは の項を除いて個数演算子の固有値で決まり、1(元の単位系では )を単位とした個数で指定されます。 は(調和振動子の)エネルギー量子 (energy quantum) と呼ばれます*1。 余分な項 は零点エネルギー (zero-point energy) と呼ばれます。
状態 が規格化されているとして、定義にある規格化定数 を定めておきましょう。
よって と定めれば は規格化されることがわかります:
この帰納的な定義を繰り返し使って、状態 は状態 と生成演算子で表すと以下のようになります:
固有状態についてもう少し
状態 に消滅演算子を作用させると
となります。 よって、状態 に生成・消滅演算子を作用させると
となり、生成演算子は が1つ大きい状態を、消滅演算子は が1つ小さい状態を作ります。 つまり、エネルギー量子を生成もしくは消滅させます。この意味で を生成・消滅演算子と呼びます。 また、 は消滅演算子によって消されるので、それ以上エネルギーが低い状態がない基底状態 (ground state) となります。
状態 は の値が異なれば互いに直交することを示しておきましょう。 として
まとめ
生成・消滅演算子
エネルギー固有状態