倭算数理研究所

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特殊関数のための微分方程式論 Quick Start ~ロンスキアン・自己随伴化~

特殊関数の公式を証明していくシリーズ(目次)。 微分方程式論、特殊関数についてのこちらのサイトの「Lectures」下にある PDF のノートが簡潔で非常に分かりやすかったので、後で使いそうな事項を見繕って、計算を追いつつまとめてみました。 と言いつつ、ちょっと記法を変えてる箇所があるので混乱したらすいません。 ここの PDF に書かれてる内容は特殊関数を使う学部生には必須の内容かと。

あまり記事内容を丸写しにするのはよくないので、いくつか例を岩波数学公式から引っ張ってきました。

【この記事の内容】

【参考】


準備

 { y(x) } についての2階の線型常微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  y'' + P(x) y' + Q(x)y = 0
\end{align*}}

を考えていきます。 線形演算子  { \mathcal{L}(x) }

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{L}(x) = \frac{d^2}{dx^2} + P(x)\frac{d}{dx} + Q(x)
\end{align*}}

と定義して、微分方程式 { \mathcal{L}(x)y(x) = 0 } と書きます。

以下に例で用いる常微分方程式を挙げておきます。

線型振動子

  { \displaystyle\begin{align*}
  y''(x) + k^2 y(x) = 0 \qquad
  \left(\mathcal{L}(x) = \frac{d^2}{dx^2} + k^2\right)
\end{align*}}

 { k } は正の定数。 解は三角関数  { \cos kx,\,\sin kx }

ルジャンドル微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  &y''(x) - \frac{2x}{1-x^2}y'(x) + \frac{\nu(\nu+1)}{1-x^2}y(x) = 0 \\[2mm]
  &\left(\mathcal{L}(x) = \frac{d^2}{dx^2} - \frac{2x}{1-x^2}\frac{d}{dx} + \frac{\nu(\nu+1)}{1-x^2}\right)
\end{align*}}

 { \nu } は実数。 解は第1種ルジャンドル関数  { P_\nu(x) } と第2種ルジャンドル関数  { Q_\nu(x) }。  { \nu }自然数の場合はそれぞれルジャンドル多項式と第2種帯球関数となります。

エルミートの微分方程式(物理学で使われる方)

  { \displaystyle\begin{align*}
  y''(x) - 2xy'(x) + 2ny(x) = 0 \qquad
  \left(\mathcal{L}(x) = \frac{d^2}{dx^2} - 2x\frac{d}{dx} +2n\right)
\end{align*}}

 { n }自然数。 解はエルミートの多項式  { H_n(x) } と第2種エルミート関数  { h_n(x) }

ベッセルの微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  y''(x) + \frac{1}{x}y'(x) +\left(1-\frac{\nu^2}{x^2}\right)y(x) = 0 \qquad
    \left(\mathcal{L}(x) = \frac{d^2}{dx^2} + \frac{1}{x}\frac{d}{dx} + \left(1-\frac{\nu^2}{x^2}\right)\right)
\end{align*}}

 { \nu } は実数。 解はベッセル関数  { J_\nu(x) } (とノイマン関数  { N_\nu(x) })。

ロンスキアンの導入

微分方程式  { \mathcal{L}(x) y(x) = 0 } の2つの独立な解を  { y_1(x),\,y_2(x) } とすると、一般解はその線形結合

  { \displaystyle\begin{align*}
  y(x) = c_1y_1(x) + c_2y_2(x)
\end{align*}}

で与えられます。 ここで  { c_1,\,c_2 }境界条件から定まります。 もう少し具体的には、境界条件として  { y(x_0) = y_0,\,y'(x_0) = y_0' } が与えられたとき

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{cases}
    c_1y_1(x_0) + c_2y_2(x_0) &= y_0 \\
    c_1y_1'(x_0) + c_2y_2'(x_0) &= y_0'
  \end{cases}
\end{align*}}

 { c_1,\,c_2 }連立方程式として解けば  { c_1,\,c_2 } が定まります。 さて、境界条件として  { y_0,\,y_0' } に任意の値が与えられたとき、それに対応する  { c_1,\,c_2 } があるかどうかを考えましょう。 上記の連立方程式を行列形式で書くと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{pmatrix}y_1(x_0) & y_2(x_0) \\ y_1'(x_0) & y_2'(x_0) \end{pmatrix}
  \begin{pmatrix}c_1 \\ c_2 \end{pmatrix}
  =
  \begin{pmatrix}y_0 \\ y_0' \end{pmatrix}
\end{align*}}

となって、これが  { \begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \end{pmatrix} } について解けるためには

  { \displaystyle\begin{align*}
  \begin{vmatrix}y_1(x_0) & y_2(x_0) \\ y_1'(x_0) & y_2'(x_0) \end{vmatrix}
    = y_1(x_0)y_2'(x_0) - y_2(x_0)y_1'(x_0)
\end{align*}}

が0でないことが条件となります。 ここでロンスキアン (Wronskian)  { W(y_1, y_2)(x) } (もしくは単に  { W(x) })を

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(y_1, y_2)(x) = y_1(x)y_2'(x) - y_2(x)y_1'(x)
\end{align*}}

によって定義すると、 { x = x_0 } での任意の境界条件に対して  { c_1,\,c_2 } が存在するためには、ロンスキアンの  { x = x_0 } での値  { W(y_1,\,y_2)(x_0) } が0でなければよいことになります。

例:線型振動子

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(\cos kx,\,\sin kx)(x)
    &= \cos kx (\sin kx)' - \sin kx(\cos kx)' \\
    &= k
\end{align*}}

例:ルジャンドル微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(P_\nu(x),\,Q_\nu(x))(x)
    &= P_\nu(x)Q_\nu'(x) - P_\nu'(x)Q_\nu(x) \\
    &= \frac{1}{1-x^2}
\end{align*}}

例:エルミートの微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(H_n(x),\,h_n(x))(x)
    &= H_n(x)h_n'(x) - H_n'(x)h_n(x) \\
    &= n! e^{x^2}
\end{align*}}

第2種エルミート関数  { h_n(x) } の規格化によっては右辺の  { e^{x^2} } の係数が異なる場合があります。

例:ベッセルの微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(J_\nu(x),\,J_{-\nu}(x))(x)
    &= J_\nu(x)J_{-\nu}'(x) - J_\nu'(x)J_{-\nu}(x) \\[2mm]
    &= -\frac{2\sin \nu\pi}{\pi x}
\end{align*}}

もしくは

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(J_\nu(x),\,N_\nu(x))(x)
    &= J_\nu(x)N_\nu'(x) - J_\nu'(x)N_\nu(x) \\
    &= \frac{2}{\pi x}
\end{align*}}


ロンスキアンを微分方程式から求める

ロンスキアンを定義通りに求めるには微分方程式を解いてしまわないといけないので大変ですが、実際には微分方程式を解かなくても求める方法があります。

微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  y'' + P(x)y' + Q(x)y = 0
\end{align*}}

の2つの独立な解を  { y_1(x),\,y_2(x) } とすると、

  { \displaystyle\begin{align*}
  y_1'' + P(x)y_1' + Q(x)y_1 &= 0 \\
  y_2'' + P(x)y_2' + Q(x)y_2 &= 0
\end{align*}}

が成り立っています。 この2式から  { Q(x) } を含む項を消去すると

  { \displaystyle\begin{align*}
  y_2y_1'' - y_1y_2'' + P(x)\left(y_2y_1' - y_1y_2\right) &= 0 \qquad \cdots(*)
\end{align*}}

ここでロンスキアン  { W(x) = y_1y_2' - y_2y_1' }微分を考えると

  { \displaystyle\begin{align*}
  W'(x)
    = \left(y_1y_2' - y_2y_1'\right)'
    = y_1y_2'' - y_2y_1''
\end{align*}}

となっているので、(*) 式は

  { \displaystyle\begin{align*}
  W'(x) + P(x)W(x) = 0
\end{align*}}

となります。 これを  { W(x) }微分方程式とみれば簡単に解けて

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(x) &= c \exp\left[-\int P(x)dx\right]
\end{align*}}

を得ます。 ただし  { c } は定数。

以下の例では定数  { c }積分定数が消えるようにとってます。

例:線型振動子
  { \displaystyle\begin{align*}
  W(x)
    = \exp\left[-\int 0 dx\right]
    = 1
\end{align*}}

例:ルジャンドル微分方程式
  { \displaystyle\begin{align*}
  W(x)
    = \exp\left[2\int \frac{xdx}{1-x^2}\right]
    = \exp\left[\int \frac{dx}{1-x} - \int \frac{dx}{1+x}\right]
    = \frac{1}{1-x^2}
\end{align*}}

例:エルミートの微分方程式
  { \displaystyle\begin{align*}
  W(x)
    = \exp\left[2\int x dx\right]
    = e^{x^2}
\end{align*}}

例:ベッセルの微分方程式
  { \displaystyle\begin{align*}
  W(x)
    = \exp\left[-\int \frac{dx}{x}\right]
    = \exp\left[-\ln x\right]
    = \frac{1}{x}
\end{align*}}

自己随伴の微分方程式

ここからは  { \mathcal{L}(x)y(x) = 0 } の形の微分方程式から離れて、線型演算子  { \mathcal{H}(x) }固有値問題を考えましょう。 つまり、 { \varepsilon } を定数として

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)y(x) = -\varepsilon y(x)
\end{align*}}

となる  { \varepsilon,\,y(x) } を求める問題です。 右辺の負符号は適当な条件下で固有値が下限を持つようにするためですが、例で扱う固有値問題が物理学と合うようにするためくらいでいいかと思います(詳しくはスツルム = リウヴィル理論参照)。

ここでは線型演算子  { \mathcal{H}(x) } として

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) = p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + p_1(x)\frac{d}{dx} + p_2(x)
\end{align*}}

の形のものを考えます。 簡単のため係数関数  { p_0(x),\,p_1(x),\,p_2(x) } は実数値関数とし、さらに  { p_0(x) > 0 } とします*1。 前節まで考えていた微分方程式  { \mathcal{L}(x)y(x) = 0 } と違って固有値問題では右辺が0でないので、2階微分の項の前にも関数の係数  { p_0(x) } を付けています。 とは言え、固有値問題を具体的に解く場合には、 { \mathcal{L}(x) = \mathcal{H}(x) + \varepsilon } (もしくは何かしらの関数をかけて  { \mathcal{L}(x) = p_0(x)\left(\mathcal{H}(x) + \varepsilon\right) })として微分方程式を解くことが多いかと思いますが。

内積
 { a \leqq x \leqq b } の範囲で定義されている関数  { f(x),\,g(x) } に対して、内積  { \langle f|g\rangle }

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|g\rangle
    &= \int_a^b \overline{f(x)}g(x)dx
\end{align*}}

として定義します。 ただし  { \overline{x} } { x }複素共役です。

エルミート演算子
上記の内積を踏まえて、演算子  { \mathcal{H} }

  { \displaystyle\begin{align*}
   \langle f|\mathcal{H} g\rangle  = \langle \mathcal{H} f|g\rangle
\end{align*}}

を満たす条件を求めます。 このような演算子エルミート演算子 (Hermite operator) と言います。  { \langle f|\mathcal{H} g\rangle } を部分積分を使って変形していくと

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|\mathcal{H} g\rangle
    &=\int_a^b \overline{f(x)}\big\{\mathcal{H}(x)g(x)\big\}dx \\
    &=\int_a^b \overline{f(x)}\Big\{p_0(x)g''(x) + p_1(x)g'(x) + p_2(x)g(x)\Big\}dx \\[2mm]
    &=\Big[p_0(x)\overline{f(x)}g'(x) - \big(p_0(x)\overline{f(x)}\big)'g(x) +  p_1(x)\overline{f(x)}g(x)\Big]_a^b \\
      &\qquad + \int_a^b \Big\{\big(p_0(x)\overline{f(x)}\big)'' - \big(p_1(x)\overline{f(x)}\big)'
      + p_2(x)\overline{f(x)}\Big\}g(x)dx \\[2mm]
    &=\Big[p_0(x)\overline{f(x)}g'(x) - \Big\{\big(p_0'(x)
      - p_1(x)\big)\overline{f(x)} + p_0(x)\overline{f'(x)}\Big\}g(x)\Big]_a^b \\
      &\qquad + \int_a^b \Big\{p_0(x)\overline{f''(x)} + \left(2p_0'(x) - p_1(x)\right)\overline{f'(x)} \\
      &\qquad\qquad + \left(p_0''(x) - p_1'(x) + p_2(x)\right)\overline{f(x)}\Big\}g(x)dx
\end{align*}}

ここで  { p_0'(x) = p_1(x) } が成り立っているとすると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|\mathcal{H} g\rangle
    &= \Big[p_0(x)\overline{f(x)}g'(x) - p_0(x)\overline{f'(x)}g(x)\Big]_a^b \\
      &\qquad + \int_a^b \left\{\overline{p_0(x)f''(x) + p_1(x)f'(x) + p_2(x)f(x)}\right\}g(x)dx \\[2mm]
    &= \Big[p_0(x)\overline{f(x)}g'(x) - p_0(x)\overline{f'(x)}g(x)\Big]_a^b + \langle \mathcal{H}f|g\rangle
\end{align*}}

となります。 最後の式の第1項は、境界  { x = a, b }

のいずれかが満たされていれば消えて  { \langle f|\mathcal{H} g\rangle = \langle \mathcal{H}f|g\rangle } となります。 つまり、 { \mathcal{H} } はエルミート演算子となります。 このような微分方程式自己随伴 (self-adjoint) と呼びます*2

 { p_0'(x) = p_1(x) } が成り立っているとき

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)
    &= p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + p_0'(x)\frac{d}{dx} + p_2(x) \\
    &= \frac{d}{dx}\left(p_0(x)\frac{d}{dx}\right) + p_2(x)
\end{align*}}

とも書けます。

【補足】
元の  { \mathcal{H} } の定義で  { p_0(x),\,p_1(x),\,p_2(x) } が実数値関数であるという制限をかけなければ、 { \mathcal{H} } がエルミート演算子であるという条件からこれらの関数が実であるという制限がつきます。

エルミート演算子固有値の性質
一般に固有値は複数存在し、それぞれの固有値に固有関数が属しています。 それを  { n } でラベリングして、固有値 { \varepsilon_n }、それに属する固有関数を  { y_n(x) } としましょう:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)y_n(x) = -\varepsilon_ny_n(x)
\end{align*}}

 { y_n(x) } { \langle y_n|y_n\rangle = 1 } のように規格化されているとします。

エルミート演算子固有値は実数

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle y_n | \mathcal{H}y_n\rangle = -\varepsilon_n\langle y_n|y_n\rangle = -\varepsilon_n
\end{align*}}

また

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle y_n | \mathcal{H}y_n\rangle
    = \langle \mathcal{H}y_n | y_n\rangle
    = -\overline{\varepsilon}_n \langle y_n | y_n\rangle
    = -\overline{\varepsilon}_n
\end{align*}}

よって  { \overline{\varepsilon}_n = \varepsilon_n } となり固有値は実数。

異なる固有値に属する固有関数は直交する
2つの関数の内積が0のとき、それらの関数は直交する (orthogonal) と定義します。

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle y_m | \mathcal{H}y_n\rangle = -\varepsilon_n\langle y_m|y_n\rangle
\end{align*}}

また

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle y_m | \mathcal{H}y_n\rangle
    &= \langle \mathcal{H}y_m | y_n\rangle
    = -\varepsilon_m \langle y_m | y_n\rangle \qquad(\because \overline{\varepsilon}_m = \varepsilon_m)
\end{align*}}

よって  { \varepsilon_n\langle y_m|y_n\rangle = \varepsilon_m \langle y_m | y_n\rangle } つまり

  { \displaystyle\begin{align*}
  \left(\varepsilon_m - \varepsilon_n\right)\langle y_m|y_n\rangle = 0
\end{align*}}

となり、 { \varepsilon_m \ne \varepsilon_n } ならば  { \langle y_m | y_n\rangle = 0 }

例:線型振動子
線型振動子を固有値問題とみると

  { \displaystyle\begin{align*}
  \frac{d^2}{dx^2}y(x) = -\varepsilon y(x)
\end{align*}}

となるので  { p(x) = 1,\,q(x) = 0 }。 定義域を  { 0 \leqq x \leqq L } としましょう。

例:ルジャンドル微分方程式
ルジャンドル微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  (1-x^2)y''(x) - 2xy'(x) +\nu(\nu+1)y(x) = 0
\end{align*}}

と書ける(一般にルジャンドル微分方程式と言えばこちらを指す)ので、固有値問題としてみたとき微分演算子

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)
    &= (1-x^2)\frac{d^2}{dx^2} - 2x\frac{d}{dx} \\
    &= \frac{d}{dx}\left( (1-x^2)\frac{d}{dx}\right)
\end{align*}}

となります。 この微分演算子 { p_0(x) = 1-x^2,\,p_1(x) = -2x = p_0'(x) } となっていて、また定義域を  { -1 \leqq x \leqq 1 } とすると  { p_0(-1) = p_0(1) = 0 } なので、 { \mathcal{H} } はエルミート演算子であることが分かります。

 { -1 \leqq x \leqq 1 } 内で固有関数が正則であることを課せば、 { n }自然数として固有値 { n(n+1) } で与えられ、固有関数はルジャンドル多項式  { P_n(x) } となります(ただし規格化はされていない):

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) P_n(x) = -n(n+1)P_n(x)
\end{align*}}

固有関数の直交関係は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \int_{-1}^1P_m(x)P_n(x)dx = \frac{2}{2n+1}\delta_{mn}
\end{align*}}

で与えられます。

微分方程式の自己随伴化

前節の方法では扱える微分方程式の形が限られてくるので、もう少し広範に使えるように理論を拡張しましょう。 後で定める重み関数  { w(x) } (実数値関数で、以下で定義する内積積分範囲内  { a < x < b } 内で  { w(x) > 0 } とする)を使って、重み付きの内積

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|g\rangle_w = \int_a^b \overline{f(x)}g(x)w(x) dx
\end{align*}}

と定義します。 この内積の元で演算子

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) = p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + p_1(x)\frac{d}{dx} + p_2(x)
\end{align*}}

がエルミート演算子になる、つまり  { \langle f|\mathcal{H}g\rangle_w = \langle \mathcal{H}f|g\rangle_w } となるように重み関数を定めましょう。

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|\mathcal{H}g\rangle_w
    &= \int_a^b \overline{f(x)}\Big\{w(x)p_0(x)g''(x) + w(x)p_1(x)g'(x) + w(x)p_2(x)g(x)\Big\}dx
\end{align*}}

なので、前節と同じ計算により、求める条件は適当な境界条件が満たされていることと

  { \displaystyle\begin{align*}
  (w(x)p_0(x))' &= w(x)p_1(x)
\end{align*}}

となっていることだと分かります。 この式は  { w(x) }微分方程式とみなせば簡単に解けて

  { \displaystyle\begin{align*}
  p_0(x)w'(x) &= \Big\{p_1(x) - p_0'(x)\Big\}w(x) \\[2mm]
  \therefore\, w(x)
    &= \exp\left[\int\left\{\frac{p_1(x)}{p_0(x)} - \frac{p_0'(x)}{p_0(x)}\right\}dx\right] \\
    &= \exp\left[\int\frac{p_1(x)}{p_0(x)}dx - \ln p_0(x) \right] \\
    &= \frac{1}{p_0(x)} \exp\left[\int\frac{p_1(x)}{p_0(x)}dx\right]
\end{align*}}

を得ます(積分定数は指数の積分積分定数を上手くとれば1とできます)。  { p_0(x) > 0 } なら  { w(x) > 0 } となります。 また、元の演算子  { \mathcal{H}(x) } を( { p_1(x) } の代わりに)  { w(x) } を使って書くと以下のようになります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)
    &= \frac{1}{w(x)}\left\{w(x)p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + w(x)p_1(x)\frac{d}{dx}\right\} + p_2(x) \\
    &= \frac{1}{w(x)}\left\{w(x)p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + \left(w(x)p_0(x)\right)'\frac{d}{dx}\right\} + p_2(x) \\
    &= \frac{1}{w(x)}\frac{d}{dx}\left(w(x)p_0(x)\frac{d}{dx}\right) + p_2(x)
\end{align*}}

これをもう少し置き換えや変形をして標準的なスツルム = リウヴィル型の微分演算子の形にすることもできますが、まぁほとんど自明なのでいいでしょう。

内積積分に重みが付いていますが、固有値が実数であるとか異なる固有値に属する固有関数が(この重み付きの内積の元で)直交するなどの性質は同じよう導けます。

【補足】
 { p_0(x) = 1 } の場合、重み関数は

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) &= \exp\left[\int p_1(x) dx\right]
\end{align*}}

となり、 { \mathcal{L}(x) = \mathcal{H}(x) + \varepsilon } として微分方程式  { \mathcal{L}(x)y(x) = 0 } のロンスキアンの逆数(定数因子を除いて)となります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) &= \frac{1}{W(x)} \\
  \mathcal{H}(x) &= W(x)\frac{d}{dx}\left(\frac{1}{W(x)}\frac{d}{dx}\right) + p_2(x)
\end{align*}}

ロンスキアンが0のとき、重み関数つまり内積がうまく定義できなくなるのですね。

例:エルミートの微分方程式
内積を全実数の範囲での積分で定義します。  { p_0(x) = 1 } より重み関数はロンスキアンの逆数となります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) = e^{-x^2}
\end{align*}}

エルミートの微分方程式微分を含まない項を固有値の項として、固有値問題としての微分演算子

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) = e^{x^2}\frac{d}{dx}\left(e^{-x^2}\frac{d}{dx}\right)
\end{align*}}

となります。 ディリクレ境界条件を課せば、固有値 { \varepsilon_n = 2n } で、それぞれの固有関数はエルミート多項式  { H_n(x) } です(ただし規格化はされていない)

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) H_n(x) = -2n H_n(x)
\end{align*}}

固有関数の直交関係は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \int_{-\infty}^\infty H_m(x)H_n(x)e^{-x^2} dx = \sqrt{\pi}\;2^n n! \delta_{mn}
\end{align*}}

となります。 内積の重み関数が、調和振動子シュレディンガー方程式を解いたとき(『シュレディンガー方程式を解こう ~調和振動子~』参考)に出てきたエルミート多項式の直交条件に出てきたものを自然に導いているのが分かります。

例:ベッセルの微分方程式
内積 { 0 \leqq x \leqq a } (ただし  { a > 0 })の積分で定義します。 この場合も重み関数はロンスキアンの逆数となります:

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) = x
\end{align*}}

固有値問題としての微分演算子

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x) = \frac{1}{x}\frac{d}{dx}\left(x\frac{d}{dx}\right) + \frac{\nu^2}{x^2}
\end{align*}}

です。 ディリクレ境界条件を課して、ベッセル関数  { J_\nu(x) } { i } 番目の零点を  { \alpha_{\nu i} } としましょう。 このとき、固有値 { \left(\dfrac{\alpha_{\nu i}}{a}\right)^2 }、それぞれの固有関数は  { J_\nu\left(\dfrac{\alpha_{\nu i}}{a}x\right) } となります(ただし規格化されていない):

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)J_\nu\left(\frac{\alpha_{\nu i}}{a}x\right)
    = - \left(\frac{\alpha_{\nu i}}{a}\right)^2 J_\nu\left(\frac{\alpha_{\nu i}}{a}x\right)
\end{align*}}

固有関数の直交関係は

  { \displaystyle\begin{align*}
  \int_0^a J_\nu\left(\frac{\alpha_{\nu i}}{a}x\right)J_\nu\left(\frac{\alpha_{\nu j}}{a}x\right) xdx
    = \frac{a^2}{2}\Big[J_{\nu+1}\left(\alpha_{\nu i}\right)\Big]^2 \delta_{ij}
\end{align*}}

となります。 内積の重み関数  { x } は、物理学的には2次元極座標ヤコビアンからくる  { r } に対応しています。

まとめ

ロンスキアン
 { y(x) } についての2階の常微分方程式

  { \displaystyle\begin{align*}
  y'' + P(x)y' + Q(x)y = 0
\end{align*}}

の2つの基本解を  { y_1(x),\,y_2(x) } とすると、ロンスキアン  { W(y_1,\,y_2)(x) }

  { \displaystyle\begin{align*}
  W(y_1,\,y_2)(x)
    &= y_2(x)y_1''(x) - y_1(x)y_2''(x) \\[2mm]
    &= c \exp\left[-\int P(x) dx\right]
\end{align*}}

で与えられる( { c } は定数)。

微分方程式の自己随伴化
固有値問題

  { \displaystyle\begin{align*}
  \mathcal{H}(x)y(x) = -\varepsilon y(x) \qquad
  \left(\mathcal{H}(x) = p_0(x)\frac{d^2}{dx^2} + p_1(x)\frac{d}{dx} + p_2(x)\right)
\end{align*}}

に対して

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) = \frac{1}{p_0(x)} \exp\left[\int\frac{p_1(x)}{p_0(x)}dx\right]
\end{align*}}

で定義される重み関数  { w(x) } を使って、区間  { a \leqq x \leqq b } で定義される2つの関数  { f(x),\,g(x) }内積

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|g\rangle_w &= \int_a^b \overline{f(x)}g(x)w(x) dx
\end{align*}}

と定義すると、演算子  { \mathcal{H}(x) }

  { \displaystyle\begin{align*}
  \langle f|\mathcal{H}g \rangle_w = \langle \mathcal{H}f|g \rangle_w
\end{align*}}

の意味でエルミート(自己随伴)となり、その固有値は実数で、異なる固有値に属する固有関数は上記の内積が0になるという意味で直交する。

 { p_0(x) = 1 } のとき、重み関数  { w(x) }微分方程式  { (\mathcal{L} + \varepsilon)y(x) = 0 } のロンスキアン  { W(x) } の逆数となる(ただし定数因子を除く):

  { \displaystyle\begin{align*}
  w(x) = \frac{1}{W(x)} = \exp\left[\int p_1(x)dx\right]
\end{align*}}

*1:実際には、後で定義する内積積分区間の内部 (a, b) で正。

*2:エルミートな微分方程式というとエルミートの微分方程式とややこしいとかあるのでしょうかね。