特殊関数の公式を証明していくシリーズ(目次)。 今回はベッセル関数や変形ベッセル関数の での漸近的な振る舞いを見ていきます。 ベッセル関数の漸近展開にはいくつか種類があるようですが、今回見ていくのはハンケルの漸近展開というものです(たぶん一番簡単なの)。 通常、これはベッセル関数の積分表示から導くことが多いようですが、ここでは級数解を求める方法と同じような手順で泥臭く求めてみます。
最初に見ていく第2種変形ベッセル関数の漸近展開は指数関数で抑えられた級数なので収束に問題はあまりないかと思いますが、ベッセル関数やノイマン関数に解析接続した場合には、級数の収束がよくないようです。 ただ、この記事では全く考慮していません。 また、引数を複素数へ拡張する場合には、引数の偏角によって式が変わる公式がいくつかありますが(変形ベッセル関数のもの)、これもこの記事では全く触れていません。
【この記事の内容】
【参考】
- 『特殊函数 (岩波 数学公式 3)』
- Digital Library of Mathematical Functions: Bessel Functions『Asymptotic Expansions for Large Argument』
第2種変形ベッセル関数の漸近展開
微分方程式の近似
変形されたベッセルの微分方程式は
で与えられましたが、 が充分大きいとき、 の項が小さいとして
と近似できます。 この微分方程式は簡単に解けて
となります。
変形ベッセル関数の漸近展開
上記の近似された微分方程式の解のうち で指数関数的に減衰する に着目して、変形されたベッセルの微分方程式の解として
となるような関数 を求めましょう。 プライム (') で 微分を表すことにして
より
となるので、変形されたベッセルの微分方程式より についての以下の微分方程式
を得ます。
今、 の振る舞いを知りたいので、変数 を で定義して (*) 式の解を の冪級数で求めましょう。 まぁ、 の冪級数で求めるのと同じですけど。
まず、 についての微分方程式 (*) を についての微分方程式に書き換えます。 微分を 微分で表すと
となるので、(*) 式より
となります。 についての微分方程式が求まったので、その級数解を求めましょう。 を後で決める実数として
と定義し、これを (**) 式に代入すると
ただし とします。 これが任意の について成り立つとして
を得ます。 (1) 式と より 。 これを (2) 式に代入して変形すると
この漸化式を繰り返し使って を で表すと
ここで を
と定義すると となります。 よって についての微分方程式 (**) の級数解 は
となり、 の漸近展開が
と求まります。
ν が半奇数の場合
が半奇数の場合、この漸近展開は比例定数を除いて『続・変形ベッセル関数の公式あれこれ』でみた第2種変形ベッセル関数 の表式
と等しくなることを見ましょう。 を自然数として のとき
となるので(最後の式は の場合も成り立つ)、 の漸近展開は
となり、確かに と定数因子を除いて一致します。 が と一致するように定数 を と定めると、これは一般の に対して の漸近展開を与え(半奇数以外の に対してこれが成り立つことは証明が必要ですが、ここでは認めることにして)
を得ます。
ベッセル関数・ノイマン関数の漸近展開
『変形ベッセル関数の公式あれこれ』で見たように、第2種変形ベッセル関数 と第1種ハンケル関数 には
という関係があったので、これを使ってベッセル関数 とノイマン関数 の漸近展開を求めましょう。
ここで、最後の和の因子について、実部と虚部を分けると
となるので、
と定義すると
となります。 これと の実部と虚部を比べて
を得ます。 また、 より、第1種変形ベッセル関数 の漸近展開も得られて
となります。
1/x の最低次の近似
上記の漸近展開で の最低次だけをとった近似を見ておきましょう。 まずはベッセル関数とノイマン関数について。 の の最低次の次数はそれぞれはそれぞれ なので
となって、ベッセル関数とノイマン関数はそれぞれ
と近似できます。
次は変形ベッセル関数。 こちらも級数の最初の項だけをとって(第1種ベッセル関数については を持つ項も無視して)
と近似できます。
まとめ
ハンケルの漸近展開ただし
また
の最低次での近似
- 作者: 森口繁一,一松信,宇田川〓久
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