『級数・フーリエ解析 (岩波 数学公式 2)』に載ってる、二項係数を1つ含む級数の公式を導いてみます。 前々回、前回に二項係数を2つ含む級数の公式をあれこれ導いたので、ちょっと順番が前後しますが。
確認
二項係数は階乗を使って以下のように定義されるのでした:
二項係数は以下の展開係数として現れます(二項定理):
二項定理からすぐに導ける公式
まずは二項定理 (1) をそのまま使って導ける公式をいくつか。 二項定理で として
また、 とすると
パスカルの三角形
次は、パスカルの三角形に関連する級数公式。 パスカルの三角形については『wikipedia:パスカルの三角形』参照。 パスカルの三角形から二項係数が計算できることを数式で表してみましょう。 まず、三角形で水平に(固定された で)見て両端が1なので
また、三角形の内部の二項係数は、上の( が1だけ小さい)行の、1だけ小さい と同じ の二項係数を加えれば計算できます:
ただし とします。 まとめると
図(表)で描くと、例えば のとき
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分を足すと赤の箇所になります。
公式の導出
さて、ではこの関係を使って導ける級数公式をいくつか。 まず1つ目。 上記の公式で として
これを が0から まで足し上げると
よって
2つ目 として
よって
この和は、たとえば のとき
となりますが、これはパスカルの三角形でいうと以下のような感じ:
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分を(符号を変えて)足していくと赤の箇所(符号は変わる可能性アリ)になります。
また、この公式で特に と置き換えると
を得ます。
さて、3つ目。 今度はパスカルの三角形で縦に足していく和を考えてみましょう。 次の級数公式が成り立ちます:
縦の和、つまり二項係数の第1引数の和はちょっと扱いにくいです。 ここでは を固定して についての数学的帰納法で証明しましょう。 のとき
よって OK。 のとき成り立つと仮定すると
このとき
よって のときも成り立つことが示せました。
この和は、たとえば のとき
となりますが、これをパスカルの三角形上で見ると以下のようになります:
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分を足していくと赤の箇所になります。
部分和
次は、級数 (2), (3) で第2引数(r の部分)の和が偶数もしくは奇数のみに限ったバージョンの公式。(2), (3) 式の辺々を加えると
左辺の和は r が偶数の項だけが残り、r/2 を改めて r と書いて
よって第2引数が偶数の項の和は
ただし、括弧 はガウス記号で、 は を超えない最大の整数を表します:
またまたパスカルの三角形で描くと の場合を青、 の場合を赤として
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分の和は 、赤の部分の和は になります。
同様にして、(2), (3) 式の辺々を引いて、 を改めて と書くと、第2引数が奇数の項の和は
ただし
パスカルの三角形で描くと の場合を青、 の場合を赤として
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分の和は 、赤の部分の和は になります。
さて、次は上記の第2引数が偶数項、奇数項の和で、さらに符号を変えて足していく以下のような級数を考えます:
和をとった結果を導くために、二項定理に立ち返って、 ( は虚数単位)とおきましょう。 このとき二項定理の左辺は
最後の式変形でオイラーの公式を使いました。 また、二項定理の右辺は
となり、実部、虚部にそれぞれ上記の級数が現れます。 よって以下を得ます:
これらは、パスカルの三角形では先に導いた級数公式と同じ部分を(符号を変えて)足していますが、一応確認しておきましょうか。 第2引数が偶数の和は の場合を青、 の場合を赤として
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分は-4、赤の部分も -4 ですね。
同様に、第2引数が奇数の和は の場合を青、 の場合を赤として
n \ r | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 1 | |||||
1 | 1 | 1 | ||||
2 | 1 | 2 | 1 | |||
3 | 1 | 3 | 3 | 1 | ||
4 | 1 | 4 | 6 | 4 | 1 | |
5 | 1 | 5 | 10 | 10 | 5 | 1 |
青の部分は0、赤の部分の和は -4 となります。
パスカルの三角形って、手軽に再現できる割にはいろいろ奥深い性質を持ってるようですね。
本日導いた公式
- 作者: 森口繁一,一松信,宇田川〓久
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1987/03/13
- メディア: 単行本
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