特殊関数の公式を証明していくシリーズ(目次)。 今回はベッセル関数の眷属である変形ベッセル関数。 定義と微分公式、パラメータ が半奇数の場合の式を見ていきます。
これらの公式は基本的に『ベッセル関数の公式』で導いたものから容易に導くことができますが、所々符号が違うので逆に間違いやすいかも!? まぁ、三角関数に対する双曲線関数みたいなもんですね(三角関数・指数関数との対応は記事の最後に表にしてみました)。
【この記事の内容】
変形されたベッセルの微分方程式
ベッセルの微分方程式は
で与えられるのでした。 この微分方程式で の項の符号を変えた
を変形されたベッセルの微分方程式 (modified Bessel differential equation) と言います。
ベッセルの微分方程式は2次元中心力ポテンシャル系でのシュレディンガー方程式を変数分離したときに、動径方向の方程式として出てきましたが、系のエネルギーがポテンシャルよりも低い領域では変形されたベッセルの微分方程式となります。
第1種変形ベッセル関数
ベッセルの微分方程式で変数を ( は虚数単位)と変換すると変形されたベッセルの微分方程式になります。 したがって、変形されたベッセルの微分方程式の解は、ベッセル関数を として で与えられます(簡単のため を非負の実数とします)。 ベッセル関数の定義を用いて を書き下すと
となるので、第1種変形ベッセル関数(変形されたベッセル関数 modified Bessel function) を
によって定義します。
が非正の整数のとき、 を自然数として
という性質があります。
複素変数の場合
引数が(負の実数でない)複素数 の場合も、変形ベッセル関数 を上記の級数で定義します:
ベッセル関数で表す場合は、 からくる多価性のため、 の偏角によって場合分けする必要があります:
ただし、この記事では基本的に変形ベッセル関数の引数は実数であるとして公式を導いていきます。
第2種変形ベッセル関数
ベッセルの微分方程式でのノイマン関数のような第2種変形ベッセル関数 もあり、以下のように定義されます:
定義から も簡単に示せます。 が整数 のときは極限として定義されますが、ノイマン関数と同様、ロピタルの定理によって に関する微分で表すことができます:
ここで
はディ・ガンマ関数、 はオイラーの定数です。
第2種変形ベッセル関数は「ノイマン関数のような」と書きましたが、実際には(第1種)ハンケル関数 と関係があります:
同様にして
も示せます。
変形されたベッセルの微分方程式の2つの独立した解は で与えられますが、パラメータ が非正の整数のときはこの2つが同じ関数となるので、 を2つの独立した解として用います( が非正の整数でない場合に を2つの解として用いることも可)。
微分に関する公式
準備
『ベッセル関数(円柱関数)の公式あれこれ』で示した円柱関数の微分公式
を使って、変形ベッセル関数の同様の公式を導きましょう。 両式で として を使うと
また、 の定義より
結果だけを書くと
これらを使って変形ベッセル関数の微分公式を導いていきます。
1階微分
(1) ~ (4) 式の左辺の微分を実行して、 (プライム (') で 微分を表すことにして)について解くと
また、微分の2つの表式の和から
も分かります。 ちなみに、 については
からも計算できます。
ロンスキアン
と のロンスキアンは、ベッセル関数のロンスキアンを使って計算するのが楽でしょう。 より
となり、ベッセル関数の場合と同じことが分かります。 と のロンスキアンは
となり、ノイマン関数の場合より簡単になりますね。 の定義にある因子 はロンスキアンが簡単になるようにとってるというのもあるのかと思います。 ただし、負符号まで含めてしまうと、後で見るパラメータが半奇数の場合の公式や漸近展開に余計な負符号がついてしまうのでつけてないのだと思います(特に確証なし)。
高階導関数
(1) ~ (4) 式はそれぞれ
と変形できるので、それぞれから以下の公式が成り立つことが分かります:
もう少し詳しい導出は『ベッセル関数(円柱関数)の公式あれこれ』参照。
パラメータが半奇数の場合の公式
変形ベッセル関数もベッセル関数同様、パラメータ が半奇数の場合には初等関数で表すことができます*1。 これを実際に確かめてみましょう。第1種変形ベッセル関数
まずは の場合。 変形ベッセル関数の定義の級数より
ここで
なので
双曲線関数の冪級数展開については『双曲線関数の冪級数展開』など参照。 が求まったので、あとは (5), (6) 式から一般の半奇数の場合が求まります。
まず正の半奇数の場合。 (6) 式を使って、( は自然数)の表式を求めてましょう:
いくつか具体的に書き下すと
となります。
次は負の半奇数の場合。 まず (5) 式から を求めておきます:
これは で を に変えた式になっています。 さらに (5) 式を使って
を得ますが、これも正の半奇数の場合で を に変えた形になっています。 双曲線関数の微分は三角関数の微分のように余計な符号が付かないので、 の具体的な式は の式で単に と を入れ替えるだけで得られます:
第2種変形ベッセル関数
が同じ形をしているので、 に対する式は定義から簡単に分かります:
いくつか具体的に書き下すと
となります。
上記で導いた公式では が微分を含んだ形で表されてますが、実際に微分を実行してしまった公式もあります。 結果はそこまで難しくはないのですが、導くのが少々手間なのでそのうち別記事で。
まとめ
第1種変形ベッセル関数
第2種変形ベッセル関数
性質
が整数 の場合
ここで
はディ・ガンマ関数、 はオイラーの定数。
微分公式
1階微分
ロンスキアン
高階微分
パラメータが半奇数の場合
具体的に書き下すと
ちなみに、円柱関数・変形ベッセル関数を初等関数と対応づけるとこんな感じです(※図はあくまでイメージです):
円柱関数 | 三角関数 | 変形ベッセル関数 | 三角関数 | |
---|---|---|---|---|
- | ||||
【修正】
- 微分公式とパラメータが半奇数の場合の公式を追記しました。
- 第2種変形ベッセル関数とハンケル関数との関係式が少し間違っていたので修正しました。
*1:この記事を書いている時点では、ベッセル関数でパラメータが半奇数の場合である球ベッセル関数は、このシリーズでやっていませんが。