倭算数理研究所

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n次元球面の面積とn次元球体の体積をガンマ関数で表す〜エレガント編〜

大学数学を使って球の体積を求めるシリーズ(目次)。 以前の記事で、かなり力ずくですが「 { n }次元球体の体積」や「 { n } 次元球面の面積」の表式を導きました。 ただ、実際にはもっと普通にやられる、エレガントな導出方法があるので、今回はそれをやってみます。 全体的にやっていることは、ガウス積分の値を求める方法を  { n } 次元に拡張したようなことです。

準備

まずは準備として

の定義を確認しておきましょう。

ガウス積分 : Gaussian Integral
ガウス積分{ I } とします:

  { \displaystyle\begin{align*}
    I = \int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}\;dx
\end{align*}}

ガウス積分の値は覚えておくべきものですが、後でついでに導出します。

 { n } 次元球面 { S_n } : n-sphere
 { n } 次元単位球面を { S_n }、その上の面積要素を { d\Omega_n }{ S_n } の面積を { A_n } とします。

  { \displaystyle\begin{align*}
    S_n &= \left\{(x_1,\,x_2,\,\cdots,\,x_{n+1}) \left|\sum_{i = 1}^n x_i^2 = 1 \right.\right\} \\
    d\Omega_n &= \left(\prod_{i=1}^n\sin^{n-i}\theta_i\right) d\theta_1d\theta_2\cdots d\theta_n \\
    A_n &= \int_{S_n}d\Omega_n
\end{align*}}

{ d\Omega_n } の表式は以前の記事「極座標のヤコビ行列とヤコビアン : n次元」を参照。 次元が1つズレてることに注意。 ただし、具体的な表式はほとんど使いません。 念のために付け加えておくと、1次元球面 { S_1 } は通常の円周、2次元球面 { S_2 } は通常の球面のことです。 後で

  { \displaystyle\begin{align*}
    A_1 = 2\pi
\end{align*}}

を使います。

ガンマ関数
ガンマ関数は

  { \displaystyle\begin{align*}
    \Gamma(x) = \int_0^\infty e^{-t}t^{x-1}dt
\end{align*}}

によって定義されます(「とあるガンマ関数の公式目録」参照)。 後の導出でΓ関数の性質

  { \displaystyle\begin{align*}
    \Gamma(1) = 1
\end{align*}}

を使います。

{ A_n } を求める

では、 { n } 次元単位球面の面積 { A_n } をガンマ関数を使って表してみましょう。 手順は

  1. { I^n } をガンマ関数と { A_n } で表す
  2. ガウス積分 { I } の値を求める
  3. { A_n } の表式を求める

です。

{ I^n } をガンマ関数と { A_n } で表す

  { \displaystyle\begin{align*}
    I^n
        &= \left(\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx\right)^n \\[4mm]
        &= \int_{\mathbf{R}^n} e^{-(x_1^2 + x_2^2 + \cdots +x_n^2)}dx_1dx_2\cdots dx_n \\[4mm]
        &= \int_{S_{n-1}}\int_0^\infty e^{-r^2} r^{n-1}drd\Omega_{n-1} \\[4mm]
        &= \int_{S_{n-1}}d\Omega_{n-1}\int_0^\infty e^{-r^2} r^{n-1}dr \\[4mm]
        &= A_{n-1} \int_0^\infty e^{-r^2} r^{n-1}dr & \left(A_n = \int_{S_n}d\Omega_n\right)
\end{align*}}

ここで { r } 積分

  { \displaystyle\begin{align*}
    \int_0^\infty e^{-r^2} r^{n-1}dr
\end{align*}}

について以下の変数変換

を施すと

  { \displaystyle\begin{align*}
    \int_0^\infty e^{-r^2} r^{n-1}dr
        &= \frac{1}{2}\int_0^\infty e^{-t}t^{\frac{n}{2}-1}dt \\
        &= \frac{1}{2}\Gamma\left(\frac{n}{2}\right)
\end{align*}}

となり、したがって { I_n } の表式として以下を得ます:

  { \displaystyle\begin{align*}
    I^n = \frac{1}{2}A_{n-1} \Gamma\left(\frac{n}{2}\right)
\end{align*}}

ガウス積分 { I } の値を求める
上記の関係式で { n=2 } とおくと

  { \displaystyle\begin{align*}
    I^2
        &= \tfrac{1}{2}A_1\Gamma(1) \\
        &= \tfrac{1}{2}\cdot 2\pi \cdot 1 & (A_1 = 2\pi,\,\Gamma(1) = 1) \\
        &= \pi
\end{align*}}

よって

  { \displaystyle\begin{align*}
    I = \sqrt{\pi}
\end{align*}}

となり、ガウス積分の(よく知っているであろう)値が導けました。

{ A_n } の表式を求める
以上を合わせると

  { \displaystyle\begin{align*}
    \pi^{\frac{n}{2}} = \tfrac{1}{2}A_{n-1}\Gamma\left(\frac{n}{2}\right)
\end{align*}}

より

  { \displaystyle\begin{align*}
    A_{n-1} = \frac{2\pi^{\frac{n}{2}}}{\Gamma\left(\frac{n}{2}\right)}
\end{align*}}

よって

  { \displaystyle\begin{align*}
    A_n = \frac{2\pi^{\frac{n+1}{2}}}{\Gamma\left(\frac{n+1}{2}\right)}
\end{align*}}

 { n } 次元球面の面積と  { n } 次元球体の体積

半径 { r } { n } 次元球面の面積を { A_n(r) } とすると

  { \displaystyle\begin{align*}
    A_n(r) = A_nr^n = \frac{2\pi^{\frac{n+1}{2}}r^n}{\Gamma\left(\frac{n+1}{2}\right)}
\end{align*}}

また半径 { r } { n } 元球体の体積を { V_n(r) } とすると

  { \displaystyle\begin{align*}
    V_n(r)
        &= \int_0^r A_{n-1}(r) dr \\
        &= A_{n-1}\int_0^r r^{n-1}dr \\
        &= \frac{1}{n}A_{n-1}r^n \\
        &= \frac{2\pi^{\frac{n}{2}}r^n}{n\Gamma\left(\frac{n}{2}\right)} \\
        &= \frac{\pi^{\frac{n}{2}}r^n}{\Gamma\left(\frac{n}{2}+1\right)}
            & \left(\tfrac{n}{2}\Gamma\left(\tfrac{n}{2}\right) = \Gamma\left(\tfrac{n}{2}+1\right)\right)
\end{align*}}

まとめると

  { \displaystyle\begin{align*}
    A_n(r) &= \frac{2\pi^{\frac{n+1}{2}}r^n}{\Gamma\left(\frac{n+1}{2}\right)} \\[2mm]
    V_n(r) &= \frac{\pi^{\frac{n}{2}}r^n}{\Gamma\left(\frac{n}{2}+1\right)}
\end{align*}}

となり、以前に導いた表式(表面積 { A_n(r) }体積 { V_n(r) })と同じ式が導けました。

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